熱海のヒッチハイクの後で
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「信二、改めてお疲れ様!」「ああ、今日は疲れた。ニコールは大丈夫?」
旅館からの照明がまばゆい夜の熱海海岸を、西岡信二とニコール・サントスの二人は散歩している。「でも今日は楽しかった。信二の仕事のお付き合いとはいえ、ドライブで箱根と熱海。それに途中でコスモスも見られたし」と、いろんな光の色がついたビーチを歩く。そして立ち止まり、波に音を聞きながら沖合の黒い海を眺めるニコール。
「ああ、コスモス。なんか前の日の出来事のようだなぁ。でもあの後、突然道で」「そう、あれも楽しかった。全く知らない人だけど直感で悪い人っぽく感じなかったから、それで信二に止めてもらうように」
「ハハハッハ!でも年配のほうの親父さん、不思議な人だった。なんか時代劇に出てきそうな人だよありゃ」「そうね弥次郎さんと喜多さん」
「ああ、そうだ思い出した。弥次喜多か。それは江戸時代の旅物語で出て来る人の名前だ」
「へえ、江戸時代の人。そうかあの人たちも旅しているみたいだったね。その江戸時代のコスプレマニアだったのかしら」
「さあね。でも無事に熱海の旅館の取材もほとんど終わった。あとは明日の朝食だけ。さて、このあと町で軽く飲もうか」「そうね、今日は運転お疲れさまでした」
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こういって町中に出てきたふたり。「あれ、これ何かしら」と電信柱に張り付けられているポスターを見つけたのはニコール「うん、落語会があるのか。あれ?この演者って」
「『九笑亭魔法陣』あ、義兄さんと戦った人だ」
「そうだ、思い出したあの人こういうところにも出るのか」「見て、今日開催らしくて、今から1時間後みたいよ。せっかくだから見に行く?」という嬉しそうなニコール。そして軽くうなづく信二。
「うん、いいね。向こうは覚えているかどうかわからないけど」と笑顔で答えた信二であった。