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虹を見ながら旅気分 第540話・7.16

「うわぁ、みて拓海君、あの虹!」高校1年の今治美羽が指さす方を見るのは、同じ高校生の尾道拓海だ。ふたりは海の方向に歩いている最中。見ればひときわ大きな七色の帯が天に向かって伸びている。
「おう! これは大きい。虹見られて良かったなあ。これで安心してお昼食べられるぞ」幼馴染で中学のころから自然と交際していたふたりは、高校はバラバラになった。でも休みの度にささやかなデートを楽しんでいる。

 そして7月に期末試験がそれぞれ行われたが、それも終わり、補講などもなかった。だから夏休み前なのにすでに夏のお休みモード。近くの公園でデートを楽しんだ。
 ただ会うだけではつまらないと、ふたりはいつしか毎回テーマを決めてデートを楽しむ。今日はここに来る前、午前中に駅に行き駅弁を買う。「どこか旅をしたいけど、お金かかるから気分だけだな」という拓海の提案であった。そして駅で各々が好きな駅弁を買う。そのあと近くの公園か広場のようなところで、弁当を食べようということである。

 ところが、提案した拓海は、当日になって慌てた。駅弁を買うにしても駅弁を販売してる駅が限られている。ふたりの住んでいるところから最も近い我孫子駅では、かつて画家の山下清にちなんだ駅弁を販売していたというが、今はもうないという。
 仕方なくふたりが駅弁を売っている駅を探していると、千葉駅にあることがわかった。
「近くの駅弁での旅気分が、ショートトリップになっちゃったな」拓海はそう言って照れ笑い。でも美羽は「それはそれで楽しいかも」と嬉しそう。

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 我孫子駅からは新松戸、西船橋駅と乗り継ぎ千葉駅に向かう。1時間少しのショートトリップ。
 午前中は雨が降っていた。そういえばまだ梅雨が明けていない。「結構降っているな。これは外では無理かな」「じゃあどうするのよ」
「どこか屋根のあるところを探すしかない」拓海は少し不快な表情で言い放つ。
 なるようにしかならないと、結局駅弁を買ったふたり。弁当を買って外に出るとふたりの願いが通じたのか、雨がやんでいた。
「雨雲のレーダー見たら、雲がなくなっている!」美羽はスマホで空の様子をチェック。それを聞いた拓海の表情が緩む。

 こうしてふたりは予定通り外で、駅弁のランチデートを楽しむことにした。

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「いただきまーす」ふたりはそれぞれの駅弁を開ける。駅弁を買ったふたりは、千葉駅からモノレールに乗って2駅。千葉みなと駅からさらに歩いたところにある、千葉ポートパークであった。その中でも公園全体が見渡せる小高い丘の上にベンチを見つけてそこに腰掛ける。
 ちなみに拓海はやき肉弁当で、美羽は菜の花弁当を購入。
 こうしてふたりは箸を動かしながら、高台から見渡せる千葉の海を見る。加えて熱線反射ガラスのハーフミラーを5571枚も使ってビル全体を覆い、空を反射している千葉ポートタワーを眺めた。
 この日は他にも人がいたが、雨上がりのためか比較的少ない。ふたりは開放的な空間で、他の人が誰もいないふたりだけの世界で、千葉グルメを存分に楽しむ。

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「ああ、美味かったなあ」いち早く食べ終えた拓海は、ペットボトルの水を飲みこむ。
「相変わらず早いわね」対照的に美羽は、まだ3分の1ほどご飯を残している。

「そうだ。ねえ、明日オープンキャンパスに行かない?」弁当を食べるのを中断し、水を飲んだ直後に放った美羽の一言。突然のことに驚いた拓海が美羽の顔を見た。
「え、オープンキャンパスって、大学の?」美羽はうなづく。「でもあれって、3年生が行くんじゃないの?」
「そんなことないって、1年生から行った方がいいって、この前見つけたよ」
「そ、そうなのか。で、どこがいいんだ」
「それは、これから探すのよ。別に今から探してもいいんじゃない。明日やっているところ」美羽はスマホを片手に探し出す。
「ハッハハハハハ!、場所によったら、又ショートトリップになるかもな」拓海はそう言って笑う。
「それでもいいわ。さっきみたいに大きな虹が見れたら」「ああ、あれはよかったなあ」拓海は視線を上に向け空を眺める。するとさっきまで曇っていた空から、僅かばかりであるが青空が見えてきた。

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「ねえ、私できたら、また拓海君と同じ学校に行きたい」「同じ学校って大学のこと?」美羽は頷く。
「で、でもそれって、学力の差とかないか?」
「大丈夫よ。中学まで同じ学校で勉強してたんだよ」
「そ、そうか、って、それ義務教育だったからな。だったら僕はもっと勉強しないと美羽の志望校目指すには遥か彼方だ」拓海は戸惑いながら頷く。
「そうよ。もしわからなかったらいつでも質問してね。こうなったら家庭教師となって、勉強教えてあげてもいいんだから」と笑顔の美羽。
 それを聞いた拓海は思わず照れながら「いいよ! ちゃんとひとりで勉強するよ」と強ぶるのだった。


参考:

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シリーズ 日々掌編短編小説 540/1000

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