新生活をたのしく 第1123話・3.3
「続編じゃないし、気軽に読もう」隣の席で見知らぬ人がつぶやきながら本を読んでいる。そんなことはあまり興味がなかった。今興味があるのは今月から始まった新生活だ。
2月末をもって前の町から引っ越しした。3月から新しい街に来たのだ。もちろんこれまで、物件の下見や引っ越しなどの手続きで頻繁に新しい街には来ていた。だがあらゆる手続きが終わり、ようやく新しい場所街の空気を感じることができる。今日は余っている有給休暇を使った。
「ふつうは桃の節句か、ひな祭りね」3月3日は確かにそうだが、個人的にはどちらかといえば「耳の日」のほうがなじみがある。小さいときからなぜか耳の病気で悩まされることが多い。
といっても致命的なものではなく、治療を続ければいずれ完治はするが、忘れたころにまた耳が不調になるようだ。
「全く聞こえない人がいることを考えればまだ幸せだ」そう思いながら耳鼻咽喉科に通う。こうして大人になったから、私的に3月3日は耳の日なのである。
「新しい街に近い耳鼻咽喉科の場所もしっかりと」引っ越しして最初に考えたのがそれだというほど。住んでいる町から電車に乗る必要があったが、2駅先には口コミでとにかく評判の良い耳鼻科があることを事前に知っていた。
今回別に診察をするわけではなく、ただ場所だけを確認するために電車に乗った。こうして確認が終わったので、電車に乗って家に戻る最中だ。
「今回は本当に場所がいいからな」耳鼻咽喉科こそ電車に乗って移動する必要があるが、そのほかのこと、例えば大きなスーパーは駅前にあるし、コンビニも別のチェーンのものが駅前に並ぶようにあった。それだけではない。前住んでいたところは駅からバスに乗る必要があった。大体20分くらいバスに乗った。だが今回はバスに乗る必要はない。歩いて5分という好立地。これは非常に便利が良いのだ。
こうして車内から降りるべき最寄りの駅の名前が告げられる。ここで車窓から視線を向ける。この辺りまで来ると、おそらく歩いても移動する可能性が高そうなところだから何があるのかチェックする。
「こういう風景か」風景を見ても特にこの街が前の町と比べて歴史的にああだとか、自然がああだとか、ビルが多いとかそんなことはない。だけど何気ない風景だけど、そこには新しい場所ということへの楽しみがあるような気がするのだ。
電車はやがて速度を落とす。間もなく駅に到着するのだろう。ここで立ちがありドアの前に立つ。先ほど独り言が聞こえた人はまだ降りないようで、座席に座ったまま。まるで睨みつけるように本を読んでいるだ。
駅のホームに電車は到着し、ドアが開く。そのままホームに降り立つ。そして駅名が書かれた表示板をチラリと眺める。「まだ、この駅名に慣れていないなあ」そんなことを思いながら改札に向かう。
「さて、まだ時間がある」改札を出たときにそう思ったので、駅前を少し歩いてみることにした。目的は特にないがとにかく新しい生活必要なものを少しでも探しておこうというわけだ。例えば先ほども言ったように駅前にはスーパーがある。だがホームセンターはない。地図で調べればホームセンターは住んでいるところとは逆方向で、国道沿いのあるようだ。
「歩いて15分か」ちょっと面倒かとは思ったが、そんなにホームセンターに頻繁に行く予定はないだろう。それよりも定期的に食料を買う必要があるスーパーが駅前にあるほうが助かるのだ。
「あとは」ほかにいろいろ見てみる。銀行は駅前にあるし、郵便局は駅から少し離れているが、実は家のすぐ近くにあってこれまた大変便利。「あと何が必要かな」地図を見ながらあれこれ探す。
いろいろ見たが、普段の生活にとってなくては困りそうなものは、ほぼ近くにあることを確認した。「あと公園は、ああ、ここかぁ」公園の場所も確認して見た。公園は残念ながら少し離れている。おそらく最寄り駅の次の駅のほうから歩いたほうが近い場所にあるが、十分徒歩圏内。地図で見る限り結構大きな公園のようだ。
「今日は公園まで歩いてみるか」ということで公園に向かって歩く。歩く道は地図のアプリがあるから問題ないが、今日初めて歩く道のようだ。歩道が完備された道路、並木道になっている。「ほう、桜の名所か」今から向かう公園は桜の木が多く植えられているらしい。
こうして公園に来た。まだ桜は咲いていないが、梅の木もあるらしく、梅が咲いていた。花を見ているだけで季節を感じるのは小さいときから洗脳されているのだろうか、そんなつまらないことを考えながら梅を見た。そのあと桜の木を見る。「来月の花見が楽しみだな」こうして新しい生活への期待感がますます沸いていくのだった。
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