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夏の日曜日の過ごし方 第939話・8.21

「よかった。蚊に刺されずに済んだ」すがすがしい目覚めの朝を迎えた。窓から太陽の日差しが照り付ける。とはいえここはエアコンの中なので、涼しいまま。いつもならそのまま朝のお出かけの準備をしなければならないが、今日は日曜日で休み。

「もう少し寝ようか」と思いつつ時計を見る。午前8時過ぎ。「まだ早いか」と思って、いったん目をつぶる。だがすぐに目を開けた。「いや、せっかくの休みに寝て費やすのはもったいない。やっぱり起きよう」と決めて、体を起こす。ここでもう一度「いやせっかくの休みなのにもう少し寝ないともったいない」と感じるが、「悪魔のささやきには乗らねえよ」と自分自身で言い返して、そのまま起き上がった。

 起き上がってトイレに行く。用を済ませて出ると突然のあくび。「ふぁあああ。やっぱり眠い」せっかく起きたのにベッドに向かおうとする。ここで「せっかく起きたのにここで寝たら、確実に午前中がなくなるよ」と聞こえた。「天使の声か?」と思いベッドには戻らない。すぐに服を着替え、寝る体制を除去した。

 朝食を食べる。食事といっても前の日に買っておいたパンをそのままかじるだけ。「何か面白いテレビでもやってないかな」とテレビをつける。だが付けたテレビはつまらないので、チャンネルをいくつも変えた。「これがましかな」と落ち着いたのは、きれいな映像が流れるような番組だ。「朝はこれがいいなあ」と言いながらパンを食べる。画面ではちょうど夏の海が流れていた。ところが腹が満たされたのか、少し眠くなる。
「ふぁあああ、眠いなあ」もちろん服を着替えているから、ベッドには戻らない。ソファーに座り寝ようとしたが、ここで天使の声がま聞こえた。「だよね」ベッドで寝るのもソファーで寝るのも同じだ。目覚ましにコーヒーでも飲もう。

 コーヒーといってもドリップで入れるような手間なことはしない。インスタントコーヒーのブラックを入れる。「ふう、やっと気が落ち着いた。これで目も覚めてきたかな。さてどうしよう。テレビ見て過ごすのはもったいない。やっぱりどこかに出かけようか」

 こうして外出するための身支度を整え、財布などの必要最小限のものだけを持って外に出た。

 外を歩く。目的もなく歩いていたが、気づいたら最寄りの鉄道駅に到着していた。「どこかにでかけようか」駅に到着し路線図を眺める。
「何も決めてないし、適当に乗って適当に降りるか」この鉄道会社はICカードが全ての駅で使える。念のためにチャージを済ませると、改札に入った。
「どっちの方面に行こうか、うーん」ここで考える。右方向なら山に行けるし、左方向なら海だ。
「うーん、海にしよう」意外に即決した。理由は簡単なこと、山に行くと虫が多い。今朝は奇跡的に無事だったが、いつもは、体質的に蚊にかまれやすく、いつも朝は痒い。こんな状況で山に行った日には、彼らの餌を提供するも同然だ。

 ということで海に向かう列車に乗り込む。各駅停車で終点まで向かう列車、急ぐ必要もなく、なんとなく見たくなった海に向かう。「そういえば今年海行くの初めてかも」マリンスポーツも海水浴もしないタチなので、海は今年初めてかもしれない。といっても山もそんなに行ってはいないが......。

 各駅停車の列車はゆっくりと進む、なんどか優等列車に追い抜かれながらも、やがて海の近くに来たようだ。「お、見えてきた」車窓から見える海は、夏らしく輝いていた。激しい太陽に照らされて白い光を水面からはじき出しているかのよう。その周りは穏やかなブルーが広がり、水平線もはっきりと見える。

「来てよかったかな」まだ目的の駅についていないのに、早くも良い休日だと思った。

 こうして海の近くの駅に降り立ち、そのまま海を目指す。列車の中は冷房が効いていたが、ホームに降りると途端に夏の日差しが照り付ける。もう立秋もお盆もすぎているというのに、まだまだ暑い日差しが体を襲い、すぐにでも汗がにじみ出てくるのだ。
 普通なら海にでも飛び込んでと考えるだろう、だけど水着なども持ってきていないし、そもそも海に入る気などない。それでもなんとなく見たかった海。砂で汚れるのが嫌だからと砂で覆われたビーチにはいかず、手前のアスファルトの道沿いにビーチが見えるカフェを探す。それはすぐに見つかった。

「あ、日曜日もモーニングセットが」カフェに入りメニューを見て少し残念。まだモーニングの時間なのに朝食を食べてきたことに後悔する。仕方なくドリンクだけを注文。「目的は飲み物ではなくあくまで海、家で過ごす休日よりずっと充実している気が」
 心の中でそうつぶやきながら、目の前のガラス越しに見える海を見る。カフェの中は冷房が利いていて、さっきまでにじみ出ていた汗がいつの間にか無くなっていた。

 ビーチを見ると水遊びに来ている人が続々と現れる。水着姿の小さな子供や若い男女、あるいは服を着たままの年配の夫婦らしい人の姿も見えた。「そういえばそろそろクラゲが出るころだったような」そんなことを頭の中で思い描く。やがて「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」と、スタッフがドリンクを持ってきた。さっそく口につける。
「でもまだお昼前、悪魔に勝ってよかった」と、誰にも聞こえない声でつぶやき、定期的にビーチに打ち寄せる波を静かに見続けるのだった。


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