見出し画像

十の輪をくぐる。

2021年8月、我が娘はオリンピック・パラリンピックで東京へ行った。前の東京五輪の高揚感とは全く異なるTOKYO2020、本当は2021なんだけど、五輪にちなんだものを読む。


 認知症ぎみの年老いた母を自宅介護でみる、50代の男性が主人公。職場では希望部署からはずされIT巧者の若者から馬鹿にされる日々。ひとり娘はバレーボール名門校で期待されるアタッカー選手。
昭和の東京五輪と令和の東京五輪をつなぐ家族再生の物語。

「私は東洋の魔女...」。
ある日、母のつぶやきをきっかけに、なぜ、母は生まれ故郷から遠く離れ、子連れで東京に来たのか、ふと疑問に思う主人公。父の想い出や親戚づきあいの記憶もない自分はどんな幼少期を過ごしたのか。母は1960年代紡績工場でバレーボール選手だったのか。鬼コーチさながら息子にバレーボールを仕込んだ母、東京五輪で果たせなかった自らの夢を託したのか。
そして、バレーボールしかなかった若き日への後悔から、娘に実業団バレーへ進む道を歩ませなくない、とネガティブな気持ちをずっとひきずっている。 

 本編では、息子であり父親である男の日常(現在)と、母・万津子の青春から結婚・後家となるまで(過去・昭和時代)が交互の章で描き出される。
とくに、農家に出戻り実母をはじめとする家族から疎まれ邪魔者扱いされるところ、克明な過酷さに、宮部みゆきか、と恐れ入った。


 終盤、主人公の過去の秘密が明かされたのち、未来へと一筋の光が見えるところ。母から息子、その孫へとバレーボールの絆が描かれ、じんとする。

辻堂ゆめさん まだ20代だって、すごいひとが出てきたものだ。

#十の輪をくぐる #辻堂ゆめ #夏の読書感想文 #東京五輪 #読書感想文 #読書録

この記事が参加している募集

#読書感想文

188,615件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?