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買えない味、小島、ある男、人生最後の日に 〜9-10月の読書

平松洋子さんの新聞記事に、「あの美味しかった母の酢物をマネしたいと思ってもできるわけがない」と書いてあって、痛く共感した。そうなのだ。母の味は物理的な味プラス想い出という数字化できないものが加味されているため、ちょっとやそっとじゃコピーできない、まさに買えない味なのだ。
 エッセイでは、居場所の大切さを食卓の「箸置き」に例えたり、食器棚はどっしりした「水引タンス」に限る、だの、旅先で酒を酌み交わす話、だの、「豆皿」あつめや買物迷子の話、だの、食にまつわる珠玉のエピソードが満載だった。ごちそうさまでした。

今日が人生最後の日だと思って生きなさい。 
 小澤 竹俊


 あんなに美食家だった方が、胃ろうになり、もう一度自分の口で食べ物を食したい。あちこち世界旅行に飛び回っていた方が、最後には、自分の足でおトイレまで歩いて行けたなら、と願う。
 そんな切ない話ばかりにうなづきながらも、過去を振り返ってばかりもいられない。今日を、明日を、強く生きよう、と気づきを教えてくれる本だった。

ある男    平野啓一郎

 詐称:学歴を、年齢を、身分を偽る行為。

昨今よくある話だが、生立ちを売買するまで追い詰められた人たちの、日本特有の戸籍ビジネスに驚いた。読み始めた当初は「ある男」が主人公と思ったが、亡くなった「ある男」は何者なのかを追いかける男の自分探しの話だった。自分は何者なのか、どこに根っこがあるか、本心を打ち明けられる身近な人はいるのか、など考えさせられた。そして、読んでいくうちに誰が誰だかわからなくなり、連ドラの相関図みたいに、名前・出身・職業など、随時書き足しながら読了したのだった。
名前や年齢や国籍なんか関係なく私はワタシである、と常つね思っているのだが、自己肯定感の低い時、隣の芝生が青々と見えることは誰にでもあること。アイデンティティって何なのか、考えさせられる。
 余談だが、日本以外の国で戸籍があるのはごくわずかだそうで、相方(マイパートナー)の国のパスポートは多民族がゆえに、他のアジア圏より高価で売買されるとか、ホンマかいな。

小山田浩子 小島

 なんかようわからん、震災跡のボランティア活動でちょっと知り合って、ちょっと気づきがあって、それでも世界は動いて前に進んでる、みたいな?
そういや「工場」を読んだ時も生き物と人間との共生の違和感が描かれてたんだっけ。
 改行が極端に少ない文体で、ページにぎゅぅぅと活字が並んでるのがハマるひとと、しんどいひとと両刃の剣のようだ。短編集だから気に入った小説がひとつあれば十分と落ち着くことにする。

明日の自分に宿題を残さず、今日を生きる。 
  by 今日が人生最後の日だと思って生きなさい。

小澤先生、言うは易し行うは難し、だわ コレ。
やれやれ、毎日宿題に追われてるわ…  みなさんはどうですか。

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