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あなたの顔は美しいか

こんにちは。
久賀塾の久保田です。

いつ読んでも、何度読んでも、ため息しか出ないくらい好きな小説があります。
Oscar Wildeの"The Picture of Dorian Gray"。
「ドリアン・グレイの肖像」です。

大学で英文学を学んでいたときに出会った1冊ですが、私にとっては一生味がしつづけるガムのような存在です。
どの言葉も、どのキャラも、人間臭いのに人間離れしていて、現実を描いていながらファンタジーでもあるような作品。

読んでくれと言ったところで、英文学に馴染みのない人にとってはとてもハードルが高いのは分かっています。

だから、ちょっと中身を紹介させてください。
興味を持ってください。
そして、いつか必ず読んでください。

舞台は19世紀イギリス。
ドリアン・グレイという1人の青年は、あまりに美しかった。

"As long as I live, the personality of Dorian Gray will dominate me."

The Picture of Dorian Gray, Chapter I

1人の画家に「僕が生きている限り、ドリアン・グレイの魅力は一生僕を支配しつづけるだろう」と言わせるほどに。

画家はドリアンの肖像画を描いた。
それは、画家にとって人生の最高傑作と断言できるほど素晴らしく美しい絵画であった。

あまりに美しく、自分の魂を全て捧げた作品となってしまったからこそ、画家はその肖像画をどこにも展示せず、モデルとなったドリアンに寄贈することを決める。

そしてドリアン・グレイはその肖像画を見たことによって初めて、自分の美しさを知ってしまう…。

さて、この作品には3人のメインキャラクターがいます。
画家のバジル。
遊び人のハリー。
そして、類まれなる美貌のドリアン。

遊び人のハリーは様々な美術品、美女、美食を楽しんできたからこそ、『美』に対して独特の感性を持っています。

"But beauty, real beauty, ends where an intellectual expression begins."

The Picture of Dorian Gray, Chapter I

「美というのは、本当の美というのはだな、少しでも知的な表情を浮かべてしまった瞬間に終わってしまうものなのだ」。

自分の美しさを知った金髪碧眼の青年ドリアン。
彼は、その美しさが若さと無知に支えられているものだということを、ハリーの言葉によって気づいてしまう。
そしてそれを失うのが、ひどく恐ろしくなってしまうのだった。

そんなドリアンも恋をした。
相手は小さな舞台でお芝居をする女優だ。
しかし、ある日ドリアンは非常に身勝手な理由で突然、彼女への恋心を完全に失う。

泣きながらすがってくる彼女を振りほどいて自室に帰ったあと、ドリアンはふと自分の肖像画に目をやる。

…the face appeared to him to be a little changed.

The Picture of Dorian Gray, Chapter VII

肖像画の顔が、少し変わっていた。
口元に、残酷さからくる歪みが見受けられたのだ。

しかし鏡を覗くと、自分の顔は以前と変わらず美しいままであった…。

人の人生は顔に出る、とよく言いますね。
祖母がよく、
「陰口ばかり言う人は、人の耳元に口を寄せてばかり喋るから、顔が意地悪に歪んでいくものだよ」
と語ってくれましたが、なるほど一理あります。

大人になるに従って、人の顔にも姿勢にも、その人の人生と内面が表れていくものです。

しかし、完全無欠の美青年ドリアン・グレイの顔は一切変わらないのです。
変わっていくのは肖像画の中の自分。
どんな悪事に手を染めても、ドリアン・グレイはいつまでも美しいままです。
誰にも見られない場所にしまいこんだ肖像画だけが、彼の醜さと歪みを反映していくのです。

は〜面白い!
どう!面白いでしょう!どうですか!

自分の『オモテの顔』である美貌を損なわず、老いることもなくなったドリアン。
『ウラの顔』の肖像画は歪み、彼の全ての悪事を明確に反映し、老いていきます。

その『ウラの顔』が自宅に居座っています。
そして、その顔は、他でもない自分だけが見られるものです。
それでいて自分の全盛期がずっと人前に晒され、称賛し続けられるんです。

それがどんなに恐ろしいことか、想像もできません。
その恐ろしさは、当然、私達が想像もできない方向へドリアンの人生を導いていってしまいます。

あ〜本当に最後まで読んでほしい!

読むだけではなく…読んだ後、私達にとって『オモテ』でもあり『ウラ』でもある自分のありのままの顔を鏡で見つめてみてほしいんです。
私はこの本を読んでから、『美しく生きよう』とずっと思っています。

さあ、あなたはどんな顔をして生きていますか?
それは、誰にも見えないところで、布をかけてずっと隠しておきたいような顔ではないですか?


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