隣の猫【怪談】
「うみゃー、うみゃー」
開け放った窓から飛び込んで来ているのは、隣の家の猫の鳴き声だ。
この所下がっているのかご機嫌なのかご不満なのかよく知らないが、とにかく大きい声で鳴いている。わざわざ暑い日中に鳴かなくてもとは思うが、夜に鳴かれて迷惑被るよりはましかと放置している。鳴いている以外に害は無いし、動物全般を特に嫌っている訳でもない。
これだけ天気がいいから思い切って箪笥の中の服や布団を干そうと思い立ち、洗濯を繰り返していると例の如く
「うみゃー、うみゃー」
と鳴き声が聞こえてきた。
ふと、そういえば姿を見た事無かったな、と思い我が家と隣の家を隔てる背の高い塀の穴から覗き見てみた。
そこには一際大きな猫が1匹、地面に伏したこれまた大きな肉の塊をむしゃむしゃと食べていた。
思わず「うおっ」と声を上げると、その声に反応して猫が顔を上げてこちらを見た。
その猫の顔の代わりに老婆の顔がのっぺりと張り付いていて、むしゃむしゃと食べるその口元は赤黒く染まっている。
驚き固まっていると、その猫らしき生き物は口の中のものを噛み終えてごくんと飲み込み、こちらに向けて
「うみゃー」
と、一声鳴いた。
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