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久賀池知明|創作大賞ホラー小説部門応募中
2024年5月3日 11:18
「拾われたってどういうこと?」 母さんが出雲の山中で拾われた? 見つかったではなく? 迷子だったとか誘拐されて見つけられたならまだ分かるけど、拾われたってのは理解出来ない。何百年前の姥捨山の話でもあるまいし……「そうか。それも話してなかったか……てっきり山鳴さんが話しているものだと……いや、すまない。俺が説明すべきだった」 父にしてはしおらしい態度で、少し待っていろと自室へと戻って行った。
2024年4月20日 14:12
テーブル、麦茶の注がれた湯呑みが二つ。 毎秒無音をかき消す秒針、時折唸る冷蔵庫と製氷機。 妻と母、あるいは既にこの世にいない人物の写真。 綺麗に整備されたアスファルトの歩道と目隠しの為に設置された生け垣の間に、エントランス前の噴水から続く水路がどこかの用水路まで続いている。用水路がほんのりと電球色に照らされ生け垣に反射し、ゆらゆらと生け垣の木々が揺れている様に見える。 首が痛くなる高さ
2024年3月11日 18:24
「その傷、見てもいい?」 鳴海は疲れや苛立った表情を抑え、改まった様に真面目表情を作って僕に聞いた。どこかで見た事があるその表情は、付喪神をお出迎えした時に見せた物と似ている。 熟れた手つきで包帯を外していき患部が露わになると、うわ、と小さく漏らした。「うわって何うわって。そんなにやばそうなの?」「ちょっと黙って」 毎回乱暴な言い方をどうにか出来ないものかと思いはするけど、たかが出会って
2023年11月11日 16:22
前回までのあらすじ母の面影を追って島根に来た継(つなぎ)。そこで祖母のセツに出会い、母がただのアルピニストではなく別の次元の存在を扱う仕事をしていたと知る。セツとセツの友人である源五郎の口論から逃げ出した先で、継は異形達に襲われていた……「誰か! ねえ!! セツさん!!! ゲンさん!! な、鳴海!!!」 どれだけ叫んで叩いても開きもしない扉を前に、鉄パイプを使って四苦八苦していた。人力で
2023年7月31日 02:29
どんよりとした気持ちで向かった縁側で、祖母がお茶を飲みながら待っていた。隣に座るよう促され、のどかそのものの縁側に腰掛ける。お礼を言って差し出されたお茶を飲みながら、島根特産らしいお菓子に手を伸ばした。出雲三昧という名前らしく、粒入りの羊羹を落雁と求肥で挟んであり、見た目からしても美味しい。一口かじると、滑らかで柔らかい感触の中から、甘すぎず小豆の濃密で優しい味わいが口いっぱいに広がった。「セ
2023年7月22日 13:39
翌朝、例のハグで強制的に目覚めさせられた僕は、鳴海と共に朝ご飯前の掃除を任されていた。「昨日の手伝うって言ったでしょ、お婆ちゃんに手伝いますって言いに行って今すぐ」と強制的に参加させられた。一晩泊めて貰ったからそれくらいはと快く手伝うつもりだったのに。「普通自分から手伝うって言わない? 昨日も思ったけどさ、そういう気遣いとか感謝って気持ちが足りないんじゃない? うんーとかいやーとか適当な事
2023年7月17日 13:42
「ようこそおいで下さいました。大したおもてなしは出来ませんが、心行くまでおくつろぎ下さい」 彼女がタイミングよく現れたのは僕が叫び声をあげた後、恐らく襖の裏で待機していたからだと容易に想像が付いたけれど、彼に向かって礼儀正しく深々と頭を下げて挨拶したのには驚きを隠せなかった。あの粗暴な彼女が恭しい態度を取れるなんて──顔に出ていたのか後ほど脇をどつかれたが──思わなかった。 でもその態度から、