見出し画像

やりたいことをやる


4月のある日のこと。

突然
息子が
私の目の前に現れて
こう言いました。

「お母さん、
お願いがあります!」

そのかしこまった感じと
はにかんだ笑顔に
私は
少し
身構えてしまいました。

一体何?

もしや
何か欲しいものでも…


「ど、どうしたの?!」

恐る恐る尋ねました…


「あのぅ…

ピアノを教えて欲しいんです」

「はっ?!」

思いもよらない答えに
しばらく
ポカーンとしてしまいました。

理由は…

弾けたら
楽しそうだから。

息子は
楽譜が読めません
もちろん
ピアノも全く弾けません。

出来る楽器は
小学校で習った
リコーダーと
ピアニカぐらいでしょうか。

私は子どもの頃から
ピアノを習っていて
家にあったピアノは
結婚と同時に
この家に運びました。

数年前までは
ボランティア活動や
幼稚園の仕事のために
ピアノに向かうことが
しょっちゅうありましたが、
最近は
そういう機会も
めっきり減ってしまいました。

それでも、
ピアノの曲は大好きで
よく聴いています。

私は、
ピアノが好きです。

でも、
息子はと言うと…

それ程
興味があるようには
見えませんでした。

中学の頃
仲の良かった友達が
ギターが得意で。
それを見て
「楽器が弾けるっていいな」
とはよく言っていましたけれど。

だからと言って
一緒に
ギターを始めた訳でも無く。
何か楽器に
挑戦し始めたた訳でも無く。

ただですね。
実は
何年か前に
一度だけ
ピアノに挑戦したことが
あったんです。

その時は
米津玄師の『檸檬』が
弾けるようになりたい
と言って。

超初級レベルの楽譜で
挑戦したのですが…
結局
途中でやめてしまって。
それっきり。

今回は
あの時のように
超初級レベルの楽譜ではなくて
ユーチューブで見る人たちのように
それなりのレベルのものを
かっこ良く
弾けるようになりたいのだと
言います。

何をどう教えたら良いか
正直私には
分かりませんでした。

それでも
全くピアノを弾けない人が
ある程度のレベルの曲を
数か月間
ただただひたすら練習して
弾けるようになったのを
テレビで
何度か見たことがあります。

そう。
出来ないことはない!

ピアノを弾くための
基礎練習とかは
ある意味
全部すっ飛ばして
弾きたい曲を
弾けるようになる
そのためだけのレッスン。

レッスンなどというと
大それた感じがするけれど
ようは、
楽譜が読めない息子に
一つ一つ
弾いて見せていく作業。

息子が
弾いてみたい曲は
いくつかあって。

『情熱大陸』
サザンオールスターズの
『真夏の果実』
マライヤキャリーの
『恋人たちのクリスマス』
久石譲の『千尋のワルツ』
などなど…。

どれもこれも
難易度の高い
ステキ過ぎる曲ばかり。

最終的に
息子が選んだ曲は
久石譲の『Summer』でした。

正直言って
この曲も
初めてピアノを弾く人の
曲ではありません。

片手で弾けたとして
両手で弾くということは 
もうそれだけで
ものすごくハードルが
高くて。

そもそも
左右違う動きをするのは
とても難しいのですよね。

でも
息子は
挑戦を始めました。

初めての練習の日。

まずは右手から。

知っている曲
と言うことで
意外とすらすら弾けました。

楽しくなってきた私は
隣に座って連弾!

うわっ、楽しい!

後ろで
シャッターを切る音が。

主人が
私たちの様子を
写真におさめていたのでした。

何とも言えない
幸せな時間でした。

さて、
2度目は、
いよいよ左手に挑戦。

 「指が動かない!
 指が届かない!
 どうして、お母さん届くの?
 お母さんの手、でかくない?!
 お母さん、指ながっ!
 お母さん、指、細過ぎない?!」

 「だ、大丈夫…   
 そのうち開くようになるから」

とにかく 
弾けるようになりたい!   

息子はその思いだけで
2度目の練習で
ついに、
(譜面通りではなく
簡単にアレンジした
左手バージョンではありましたが)
ほんの2、3小節
両手で弾ける?!
両手を動かせる?!
ようになりました。

そして、
な、なんと
1オクターブ届かなかった指も
その日のうちに
届くようになって。

 「腱鞘炎になるから 
 今日はその辺にした方がいいよ」

と止めたほど。

来年のSummer
いや、
再来年のSummerには
全部弾けるように
なっているといいね…
そう思っていたのですが…

その数日後…
な、なんと
簡単バージョンじゃない
譜面通りの左手で
数小節弾けるようになっていて。

驚きました!

楽譜が読めない息子は
私の指の動きを見て
憶えているのですが、
その飲み込みが早いのです。
そして
忘れない…。

勉強はすぐ忘れるのに…
(これは余計でした…)

息子の様子を見て
主人が後から
私に言いました。

「センスあるよ。
小さい頃から
やってたら
今頃
どうなってたのかな」

「小さい頃は
興味を示さなかったからね。
なぜか知らんけど
15歳の今だったんだねぇ…」

それでも
やりたいことをやる!

プロになるとか
誰かに聞かせるとか
大きな目標なんかなくても
ただやりたいからやる。

そんな風に
自分の思いに
ただただ正直に
挑戦する息子が
私には
キラキラ輝いて見えました。

ひと月以上経って
なんと
三分の一程
両手で弾けるように
なりました。
しかも
ある程度の速さでです。

まさか
ここまで弾けるようになるとは!

正直驚いています。

息子は笑顔で
こう言います。

「楽しい!」

と。

そして
こんなことも。

「死ぬまでに
情熱大陸が弾けるように
なりたい!
だから、まずは
お母さんが弾けるようになってね」

ハハハ…。
お母さん
弾ける気がしないんですけど…。
でも
初めてのあなたが
ここまで出来たんだものね。
お母さんも
挑戦してみようかな。

思い返せば
私も小さい頃
あれもしたい
これもしたいと
思っていたっけ。

水泳
ピアノ
フィギアスケート…

水泳は
学校のプールで
(当時は放課後
自由に遊んで帰れたので)
毎日
付き添いの先生に
教えてもらって
唯一平泳ぎだけ
上手に泳げるようになって。

嬉しくて嬉しくて
たくさん練習したら
選手にも選ばれて。

スイミングに通っている
子と違って
他の泳ぎは全然だったけれど
平泳ぎだけは
いくらでも
泳いでいられるくらいになって。

今、水上で
もしものことがあったら
生き残るために
選ぶ泳法は
間違いなく平泳ぎ。

他の泳法では
間違いなく
すぐに溺れてしまうでしょう。

ピアノは
昔、叔母が使っていた
古いオルガンが家にあって
3歳か4歳の私は、
毎日夢中になって
弾いていたらしいのです。

そんなに好きならと
両親がピアノ教室に
通わせてくれて。

もちろん、
その道のプロになった訳では
ないけれど
ピアノは
私の人生を
豊かにしてくれました。

フィギアスケートは
近所に習っている子がいて
とっても羨ましくて。

でも、
これは
スケート場で
普通にスケートを楽しむ程度で
終わりましたけれど。

そう言えば
大人になってから
始めたこともありました。

スキー。

楽しくて楽しくて
一人で
毎週雪山に通ってたなあ…。

そうやって
憶えたスキーは
息子がやりたい!
と言った時に
すぐに教えてあげることが
出来て。

息子は
今年の冬は
シーズン券を買って
とことん
スキーを楽しみたいらしいです。

私が夢中になったことは
私を幸せにしてくれただけでなく
こうして
巡り巡って
息子だったり
他の誰かの
喜びや幸せにつながっていて…。

やりたいこと。

それがどんなに
細やかなことであったとしても
これからも
その自分の願いを
叶えてあげたいな…

息子の挑戦する姿を見て
そう思いました。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?