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自分を守るために本音を隠していた…

息子から
中学校での出来事を
色々聞いていた時のこと。

あるグループの話題に
なりました。

「あの人たちはさぁ、
Aの支配下にあるから。
本音が言えないんだと思うよ」

A君のことは
私もよく知っていました。

A君と息子は
小学校の頃、
何度か同じクラスになり、
息子の話の中にも
A君の名前は
度々登場していました。

例えば
「良く分かんないんだけど、
AとCがゲームで揉めてて、
AはCのこと嫌ってる。
あいつ嫌い。
C死ねって言ってる」
この手の話は
しょっちゅう
耳にしていました。

「あいつ嫌い」
「○○死ね」
気に入らないことがあると
口癖のように飛び出す言葉。

実際に私も、
A君が呟く、
「○○死ね」や「○○嫌い」を
何度か耳にしたことが
ありました。

そんなこともあって
私にとって
A君は
気になる子の一人でした。

息子は
A君の日常の出来事を
いつも、
さらりと話してくれましたが、
正直、
一体どんな思いで
一緒にいるのだろうと
ずっと、
気になっていました。

ただ、
息子が
A君と付き合うことに関して
関与するつもりは
ありませんでした。

きっと、
息子は
A君に惹かれる部分があって
一緒にいるのだろう…
そう思い、
見守っていました。

A君の放った言葉が蔓延し、
良くない雰囲気を
生み出すことも
度々ありました。

例えば…
A君の「あいつ嫌い」に
便乗する仲間が増えていく
と言ったように。

中学生になってからの息子は
A君の嫌なところを
さらりと
伝えてくるようになりました。
「Aは悪口ばかり言っているからね」
「文句を言うなら、
Aがやればいいんだよ」

だからと言って
彼と一切関わらない
訳でも無く
A君には
こういう所がある
と分かった上で
適当な距離を置いて
付き合っているようです。

常にA君と一緒にいる
仲間達の中には
本音が言えていない子、
A君の支配下にある子がいる…
息子の目には
そんな風に
映っているようです。

「ところで、
○○(息子)は、
一緒にいなくて大丈夫なの?」

「必要な時は話すけど、
今はそれだけ。
別に悪い関係ではないと思う。
大丈夫だよ。
陰で何か言われてたとしても、
別に気にしないし」

「ならいいけど…」

息子は強いなあ…。

私は
本音を言えず
相手に合わせて
辛くなったり
自己嫌悪に陥った経験が
山ほどあったのに…。

それにしても

A君の支配下ねぇ…
本音を言えないかぁ…

ふと、
私が小学生の頃の
ある出来事を
思い出しました。



それは、
5年生の時のこと。

クラス替えで、
仲良しのSちゃんと
クラスが離れました。

Sちゃんは1組で、
私は2組。

私のクラスの先生は、
母親と同じぐらいの歳の
喜怒哀楽のはっきりした
ひょうきんな女の先生でした。
私は先生のことが大好きでした。

SちゃんのクラスのM先生は
大学を出たばかりの、
もしかしたらそれは
私の記憶違いかもしれませんが…
若い男の先生でした。
友達のような感じ、
そんな風に私には見えました。

Sちゃんと話していて
M先生の話題になることは
ほとんどなく、
好きとか嫌いとか
そういう話も
聞かなかったので、
私にとって、
M先生は、
良いも悪いもなく
たくさんいる先生の中の1人
くらいにしか 
思っていませんでした。

1学期のことか、
夏休み中のことか
はっきり
憶えていませんが、
先生の頼まれごとか何かで
帰りのスクールバスに
間に合わなかった時が
ありました。

私の他にもそういう子が
1人か2人いて
なぜかその時
M先生の車で
家まで送ってもらいました。

後部座席から
身を乗り出すようにして
M先生と話をしたこと、
M先生の左斜め後ろ姿が
ぼんやりと
記憶に残っています。
M先生の顔は
どうしても、
思い出すことが
出来ないのですが、
穏やかで優しい先生…
そんな記憶が
うっすらと残っています。

それから間もなくのこと。

それは、
2学期が始まってすぐの
ある月曜日の朝のことでした。

スクールバスから降りて
いつものように
昇降口に向かっていると
1組の男子が
ニヤニヤしながら
話しかけてきました。

「おい、お前知ってるか?」
「何が?」
「えっ、知らないの?」
「何のこと?」
聞いても、
ニヤニヤしているだけで
何も答えてくれません。

自分の教室に向かう途中
1組の教室をのぞくと
1組の男子は、
何だか少し
興奮気味で
はしゃいでいるように
見えました。

何があったのだろう。
不思議に思いながら
自分の教室に入ると
クラスメートが
私の元に駆け寄って来て
言いました。

「知ってる?
M先生自殺したの」

えっ

突然のことで
一体何が起きたのか
分かりませんでした。

自殺…

死んだ…

どうして男子は、
笑ってるの

どうしてふざけてるの…

私には
何が何だか
さっぱり分かりませんでした。

その後、
全校朝会があり、
校長先生から
M先生が亡くなったことが
伝えられました。

教室に戻り
担任の先生が
事情を詳しく
話してくれました。

山奥で
M先生の車が
見つかったこと。
車の中で亡くなっていたこと。
窓ガラスを割って助けたこと。
M先生のお母さんが
窓ガラスの割れた車の中で、
M先生を抱いたこと…。

先生…

どうして…

私は、
ついこの間
先生の車で
家まで送ってもらったことを
思い出していました。
車の中で過ごした
あの楽しい一時。
あとからあとから
涙がこぼれました。

ふと周りを見ると
泣いている人は
誰もいません。

自分だけ泣くのは
おかしい…
咄嗟に私は
泣くのを我慢しました。


その後も、
1組の男子のことが
気になって、
Sちゃんに
クラスの様子を聞きました。

Sちゃんは
「やっぱり、
男子はふざけてるの…」
と教えてくれました。

先生のお葬式には
1組の代表数名が
参列しました。
その中にSちゃんもいました。

お葬式から帰って来た
Sちゃんに
お葬式での
クラスメートの様子を聞くと
さすがに、
お葬式でふざける子は
いなかったと聞き、
少しほっとしました。

私の担任の先生は
私たちの前で
ポロポロと涙を流し
悲しみを露わにしました。

そのことが
私にとっては救いでした。

休み時間にも
瞼を真っ赤に腫らし
なおも
涙を流しながら

「どうして
死んでしまったんだろうね…」

「M先生に、
何か気になることはなかった?
もしあったら教えてね…」

先生は、
そばにいて
力になれなかったことを悔み、
自分を責めているようにも
見えました。

結局
先生がなぜ
自ら命を絶ったのかは
私たちには
分からないままでした。


先生が自殺したことは
もちろんショックでした。
けれども、
私がもっとショックだったのは
先生の死を
クラスの男子が
面白がっていたことでした。


なぜ、
男の子たちは皆、
笑ってふざけていたのだろう…

このことは
私の中で
ずっと悲しい思い出として
残り続けました。



Aの 支配下にある


息子の言葉に、
私は突然
あの日のことを
思い出し、

もしかしたら
悲しんでいた子も
いたのではないか…
そんな風に思ったのです。

誰かが、
死を面白がり
クラスにそういう空気が
流れたから
悲しんだり泣いたり
出来なかったのでないかと。

実際
M先生の死に対して
何も感じない子も
いたのかもしれません。

でも、
決して
そういう子だけでは
なかったのではないかと
思いました。

思い返せば
私もあの時
一人だけ泣いている自分を
恥ずかしいと思い
必死に隠そうとしたのです。
自分だけ
こんなに泣くのは
おかしい…。
笑われる…と。

あの時、
1組の教室には
悲しんだり泣いたりできない
そんな空気が
流れてしまっていたのかもしれない…。
そう思ったら
私の中の悲しみが
すーっと消えていきました。


今も
学校では、
自分を守るために
本音を出せずに
苦しんでいる子どもたちが
たくさんいることでしょう。

表に現れている姿が
真実ではないことを
周りの大人が理解し
その子たちが
自分や周りを信じ
行動していけるよう
支えてあげられたら
この子たちも、
きっと
救われるのでは
ないでしょうか。

そして、
A 君のような
子どもたちにも
同様に、
豊かな人間関係を
築いていけるような支えが 
必要なのだと思います。

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