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平気なふりをしているけれど、やっぱり不安でたまらないのかもしれない。

それは
11月上旬のことでした。

朝、台所で
朝ごはんの支度をしていると
廊下の方から何やら物音が。

時計を見ると
まだ5時40分。

主人や息子が
起きるにはまだ早い時間です。

不思議に思い
廊下に出てみると
息子がジャージ姿で
顔を洗っているのが見えました。

「どうしたの?」

驚いて尋ねると

「Hがさあ、昨日突然
 朝、走ろうって言うからさ」

「えっ、◯◯ちゃんが?」

俄かに信じがたい話。

◯◯ちゃんことH君は
息子のクラスメイト。

◯◯ちゃんは、
どちらかというと
運動は好きな方ではなくて。

一応
運動部には
所属していたのですけれどね。
先生との折り合いが悪くて
ほとんど行っていなかったようです。

それに、朝が大の苦手。
学校が始まる30分前に
ようやく起きて
いつも遅刻すれすれに登校。

授業中は
(テスト中でさえも)
ほとんど寝ているのだとか。

それと…
お母さんと
あまりうまくいっていないようで
いつだったか、
「Hさあ、お母さんと
1週間口を聞いていないんだってさ」
と息子が話していたことが
ありました。

息子と◯◯ちゃんは
いつも一緒
というわけではないけれど
会えば普通に話をするし
たまに向こうから
遊びに誘われることもあります。

ただ、
約束をすっぽかすこともしゅちゅう。

それでも
息子はそれを承知で付き合っていて
すっぽかされても
「Hだからね」
と案外ケロッとしているんです。

ここでちょっと
余談になりますが
高校入学に備えて
9月の終わりに
ようやく
息子用のスマホを買いました。

この辺での
中3の普及率は
都会ほどではなくて。
聞けば
クラスの半分くらいの子が
持っているとのこと。

友達からは
随分前から
催促されていたようですが
本人はそれほど必要性を
感じていなかったよう。

とは言え、
スマホを持っていないがために、
約束の場所に
誰も来なかったと言って
戻ってくることも
度々ありました。

スマホを買ってすぐに
クラスのライングループに
招待してもらったのですが
一時的に
クラスメートからのメールが殺到して
大変でした。

その時、
◯◯ちゃんは、
ひたすら、
おすすめのユーチューブ動画を
送り続けてきて。

最終的に息子は
「はい、はい(分かりました)」
とクールに返信して
終わらせたよう。

話が随分と
それてしまいましたが、
◯◯ちゃんは
まあ、色々あるけれど
息子にとっても
私たちにとっても
何というか
憎めない存在なのです。

さて、本題に戻って。

そんな◯◯ちゃんが
突然、朝一緒に走ろうだなんて…。
一体どうしちゃったの?
本当に来るの?

ただ、息子は
来ないこともちゃんと想定済み。

5時40分の時点で
ラインをしたけれど
未読だったから
可能性としては
来ない確率がかなり高いと。

それでも
息子はとりあえず
行ってみると言うのです。

無駄足になっても平気なの?
私は正直驚きましたが
「なんか、面白そうだから」
そう言って、
息子は出かけて行きました。

6時15分頃
ガチャっと玄関の開く音がして。

「ただいま。
 10分待ったけど
 来なかったから帰って来た」
 と息子が帰って来ました。

「そうだよね。
 朝が苦手な◯◯ちゃんだもん。
 まだきっと夢の中だよ」
 私はそう言いました。

でもね…
6時半に
「ごめん」
とラインが入ったのだそう。

あの◯◯ちゃんが
6時半に起きたなんて
やっぱり本気だったんだ。
起きるつもりだったけど
寝坊しちゃったんだね…。
何だか◯◯ちゃんのことが
愛おしくなりました。

「なんて返信したの?」
 息子に尋ねると
「『問題ナッシング』のスタンプ
 押しといた」と息子。

その言葉を聞いて
胸がいっぱいになりました。

それにしても…
◯◯ちゃん
どうして突然走ろうって
思ったんだろう…。

もしかしたら…。

実はこの日の前日、
中学校で
3年生の生徒と保護者を対象にした
入試説明会がありました。

長時間にわたり
推薦について
一般入試について
願書の書き方、提出について
入試に関する説明を
山ほど受けました。

走ろうと誘ってきたのは
その後のことだったよう。

私は勝手に想像しました。
走らずにいられなくなったのかな…と。

勉強も運動も嫌いで
先生とも喧嘩してしまうほどの
◯◯ちゃんだけど
高校への進学は希望しているのだそう。

学力のことやら
生活態度のことやら
入試に関わる話を
山のように聞いて
◯◯ちゃんは
どんなことを思ったのだろう…

◯◯ちゃんが息子に
一緒に走ろうと言ったのは
きっと本気だったのだろう…

モヤモヤした時に
うわぁって
走りたくなる気持ち
何だか分かるような気がするもの。

結局
自分から
約束をすっぽかしてしまう形には
なってしまったけれど
それでも
「一緒に走ろう」
と誘ったその時に
「いいよ」
と言ってもらえて…
それだけでも
◯◯ちゃん救われたんじゃないかな…
私はそう思いました。

そして
息子も、
なんか面白そうだから
とは言っていたけれど、
本当は、
○○ちゃんと同じで
不安でたまらなくなったんじゃないかな。

だからこそ、
不確かな約束であることを
承知の上で
出掛けていったんじゃないかな。

もしかしたら
本人はそのことに
気付いていないのかもしれないけれど。

なんとかなるっしょっ
なんて
いつも平気なふりをしているけれど
息子は息子で
○○ちゃんは○○ちゃんで
どうしようも無いほど
不安になることが
きっとあるのだろう。


大丈夫だよ。

真っすぐに続く道も
遠回りに思える道も
どちらも必ず
夢につながっているから。

私は、
心の中で
息子と○○ちゃんに
エールを送りました。


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