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09|無気力


Flow|2020

Title|Flow
Date Created | 2020
Art Supplies|シルクスクリーン印刷
Size| 508×610mm

Concept|
果てしなく気だるい気持ちだった。
とにかく何もしたくない。何も考えたくない。
水のように流れていきたい。

Explanation|
授業での課題制作で2度目のシルクスクリーン制作でした。
シルクスクリーンの技法については「05|版画の特性」をご覧ください。
この作品はコロナによる自粛期間が終わり、学校へ登校するようになった時に制作した授業課題でした。その頃私は描きたいものが何も思い浮かびませんでした。なぜか気分が落ち込んでおり、とにかく無気力。机に自分の腕を枕にして寝そべっている時に、ふと目に映りました。それは蛇口が横にずらっと並んだ洗い場でした。その洗い場ではインクや筆を洗ったりと様々なものを綺麗にする場所でした。そんなひねると流れる水に私はなりたかった気持ちでした。誰にも気にされず水のように流れていきたい。この手がどんどん水のように流れていけばなんて気持ちがいいんだろう。などと柄にもなく感じていたのです。そんな気持ちを体現した作品が「Flow」なのです。シルクスクリーン特有の色の重なり合い。体の水分という水分が抜け落ちていく。自分の行き先も知らぬままただひたすらに流れたかった。そんな自分の憂鬱な気持ちが全面に出されている作品です。正直私はシルクスクリーンがあまり好きではありませんでした。なぜなら答えが初めからわかっていたからです。どういうことかというと、銅版画はインク乗りや、プレス機の圧力によって、日を跨ぐたびに印象がその都度変わります。しかし、シルクスクリーンは元の絵があり、ただその絵を拡大して、インクを乗せるだけのごく単純なものだったからです。私にとって銅版画のような、職人気質な微調整や慣れの必要な作業がとても好きでした。上手くいった時の感動が倍感じれるからです。冒頭に説明した通り、この作品を制作しているときは絶賛鬱中だったので、まっったくやる気がありませんでした。作品をよくみてみると…色と色の境目あたりに小さな隙間が沢山あるのです。シルクスクリーンの特性として、基本版は固定し、インクの落ちるパーツの位置を調整する必要があるのです。この工程の時点で私はすでにミスを犯しているのです。やる気がない時に好きじゃないことをする。私にとってとても苦痛だったでしょう。それでも完成したこの作品。個人的にはとても好きです。自分の人間味あふれる部分が全て詰まっている気がするからです。でもきっと今なら楽しんでシルクスクリーンを製作できると思います。なぜなら今になってあの頃の環境はとても恵まれていたんだなと感じているからです。その時にしか味わえない特別感と安心感。今の自分には感じえれない特別な時間と空間でした。皆様も憂鬱な日々を送っていると思います。中には毎日ハッピーなんて思っている人もいるかと思いますが…今では稀な存在ですね。ふと思うことがあります。なぜ人は鬱になってしまうのか。過去の自分で確認した時、人は環境に依存する性質を持っていると思いました。自分が立っているこの場所。自分が住んでいるこの場所。自分が唯一全てをさらけ出せる場所。それは私にとって緊急事態宣言で動けなくなってしまった場所である実家だったのだと思います。もちろん実家にいるときは早く外で遊びたいなと思っていました。が、実際に久々に外に出て歩くとやっぱりしんどいですよね。眩しいほどの日光が頭痛になりますし、人々はマスクをしていて咳き込む人に冷たい視線を送る日常。正直うんざりでした。結局私が辿り着いた結論としては、自分が一番居心地の良いと思っている場所から離れたり、何者かによって崩されたり、何かしらの理由で自分がお気に入りと思っている場所が無くなることだと思いました。人間は環境が変化すれば、変化するということに対してストレスを感じます。幼稚園から小学校、小学校から中学校、知らない人しかいない環境に漠然とした不安感に自信がなくなっていくのです。その不安感の振り幅が人それぞれ違うため人によって鬱の大きさが違うのです。幸い私は鬱と言っても大したことはなくただただやる気と気力が一時的になくなる程度でしたので、今まで問題なく頑張ってこれました。皆様も環境を変える際は慎重に考えてから変えることをお勧めします。水のように流れたくなるので。
それではまた。


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