承認欲求
自分さえ良ければなんでもいいと、楽観するようになってからしばらく経つ。
しばらく経った。
今になって気付く。
自分が守りに入っていたのだと。
何もしていなかったから安心しきっていた。
退屈な日々が早く終わる事ばかり望んでいた。
過去の舞台劇のような激しさを失った、無駄を消費するだけの余生になど意味は無いと。
せめて最期だけはシニカルに、面白可笑しくなればいいと。
そんな馬鹿げた事を考えては自嘲していた。
試しに絵を描いたら褒められた。
続けて欲しいと言われた。
展示はしないのかと訊かれた。
出店すればいいのにと言われた。
数さえ揃えば立派な作家だと言われた。
つまらない人生が突如として途切れ、そこから毎日のように絵を描いている。
もっと描かなくては。
もっと表現しなくては。
もっと刺激を受けなくては。
もっと上手くならなくては。
もっと評価をされなくては。
嬉しさや楽しさが過ぎ去った後に襲ってきた感情は焦燥と欲求。
久方振りに見た追われる悪夢。
それでも腕は止まらない。
筆を捨て指で下地を塗る。
色を重ね混ぜ合わせる。
叩き付けてまた塗り潰す。
苦しい楽しい悔しい辛い。
段々と顕になる自分の中身。
暗い色に暗い表現、また塗り潰す。
それでもいいはずなのに。
今になって恐れている。
「またみんな離れていくんじゃないの?」
今までの人達のように、中身を知ってもらった途端に手のひらを返すのではないかと。
明るく笑っていないと眉をひそめるんじゃないかと。
失うのが怖くなかったのは何も持とうとしなかったから。
何か持つと必ず失う事を知っていたから。
まだ逃げるのか、また逃げるのか。
そうやってつまらない人生の揺籃に揺られ眠っていつか来る終わりの夢を見るのか。
嫌だ。
つまらない人生なんて嫌だ。
終わり良ければ全て良しだなんて思わない。
続けよう。
馬鹿げた喜劇を。
でもここでだけは弱音を吐かせて。
またちゃんと笑うから。
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