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孤独な君のレジスタンス。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』

中学生編 -9

バンドは団体戦だ。
クラスの片隅でひとり、どんなに鬱屈として世間を呪ってみたところで、その一瞬で世界を一変させる1,2,3,4の奇跡の4カウントは、教室の窓の外からも気になるあの子の寝言からもまるで聞こえてきやしない。

どんなにコミュニケート不得手だろうが、仲間を集めないことには音楽は鳴り始まらないのだ。これはゲームではない。

そしてベーシストとボーカルが不在なまま、僕らは中学最期の春を迎えた。

*現在のメンバー
ギター:マタヒコ
ギター:ヒサミツ
ドラム:カイト
(恐ろしいことに当時はインターネットはおろか、校外でメンバー募集するなんて想像をもしなかったのである)


ある日の放課後、もはや日課となった新作ミックステープの配布をしながら、僕は数ヶ月前にリリースされたTM NETWORKの「RESISTANCE」という曲がいかに「Get Wild」の影に隠れている名曲かをクラスメイトに力説していた。

(…?)
何やら、廊下の方騒がしい。教室から様子を見に出てみると、隣のクラスでどうやらちょっとした男子同士のいざこざがあったらしく、すでに騒ぎは収まっていたが廊下の隅っこにひとり、座り込んでいるヤツがいた。
色白で少しふっくらしていて、背も大きくはなく一見大人しそうなタイプに見える。怪我こそしていないが、それなりの取っ組み合いにはなっていた様で、学ランのボタンが上から2,3個取れかかっている。

(えーと…名前なんだったっけな…)

「大丈夫…?」
とりあえず声を掛けてみた。

「……。」

(たしか去年アルジェリアかどこかから転校してきた帰国子女の…)
「シロウ、だっけ。ケガとか大丈夫」

「…I’m Okay, don't worry about it.」

(うへっ、英語かよ…)
「お、OK。それでさ、いったいどうしたのさ」

言葉少なに語る彼の話を要約するとこうだ。まだ日本に来て日も浅く、友達らしい友達も出来ていない中で、いわゆる日本的なお世辞の類いがさっぱり理解出来ず、ホームルームで思った事をそのまま口にしたところ、一部のクラスメイトの顰蹙を買い、放課後に多勢に無勢での小競り合いとなったらしい。

はぁ、実にくだらない。
音楽との出会いで個の自由を自覚した身としては、そういうクソみたいな同調ムードの不毛さはイヤという程理解出来る。

どうみたって喧嘩が強そうには見えないけれど、無駄に度胸だけはあるんだな。
遙か遠いアフリカの地から、孤独なレジスタンスがやってきたというわけだ。

その時、僕はそんなシロウに誰かと同じ雰囲気を感じていた。

愚直な物言い、どうであっても揺るがない信念。

そうだ、吉岡だ。
他のクラスメイトには持ち得ない独自の世界。

「シロウ、君は間違ってないよ。そんなの気にしないで放っておけばいいさ。」

「そうか、アリガトウ。」

そこで彼は初めて少し笑った。

そんなシロウの自宅は僕の家の区画のほんのひとつ先のブロック、歩いて2分もかからない距離だったという事が判明する。それもあり、彼のクラスの担任からも頼み込まれてそのまま付き添って下校する流れになった。

それをキッカケに僕らがお互い見えないマークの様なものを見付けあって、そのカタチのひとつとして"音楽"を共有する様になるまで、さほど時間は必要としなかったのだ。


ーつづくー

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