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人生最高の漫画 「風の谷のナウシカ」を語る

こんにちは!
株式会社LOCKER ROOMでWEBTOONのプロデューサーをしている久保田大地です。
現在LOCKER ROOMではプロデューサー同士でWEBTOONを読んで分析会を実施しており、有名作品のインプットを習慣化し、物語の構造や登場人物について考察する時間を設けています。
それを経て、作品の魅力を言語化するって改めて必要な工程だなと実感しまして….今回は僕の人生に影響を与えた傑作漫画「風の谷のナウシカ」について熱弁したいと思います。

風の谷のナウシカとは?

流石にこのタイトル自体を知らないという方はほぼいないのではないでしょうか。
1984年に公開された、宮崎駿監督のアニメーション映画が有名ですが、それに対して原作のマンガが存在するということは、映画の有名さに比べてあまり知られていない気がします。
原作は全7巻で、映画は漫画の2巻相当の内容となっています。宮﨑駿自ら筆を取り、1982年から雑誌アニメージュで連載。まだスタジオジブリができる前で、現ジブリの取締役である鈴木敏夫氏はアニメージュの担当編集者でした。後に日本そして世界を代表するアニメーションスタジオを作る2人の出会いが漫画家とその担当編集だったと考えると、似た業界に身を置く1人として感慨深いものがあります。
漫画は12年という連載期間を経て、1994年に完結します。宮﨑氏は本作について、「体力・能力・時間的に限界で、ぐちゃぐちゃの未完のまま」という趣旨のコメントを残しているそうです。が、とてもそうは思えません。終わり方も含めて、「風の谷のナウシカ」はまがいもない大傑作なのです。

ワイド版風の谷のナウシカコミックス (漫画全巻ドットコムより)

漫画版ナウシカとの出会い

僕自身はジブリ映画と共に生まれ育ってきた世代で、中学生頃まで映画のナウシカしか知りませんでした。
そんなある日、父の本棚でナウシカの漫画を発見します。父の本棚にはミステリー小説ばかりが置いてあり、ナウシカの他に漫画は手塚治虫の「火の鳥」シリーズと、大友克洋の「童夢」しかありませんでした。今思うと厳選された素晴らしいラインナップで、そのどれもが僕の人生最高の漫画になっていくわけですが、その中でナウシカは新たに本棚に加えられた新参者でした。
映画で知るナウシカと何が違うのかな〜なんて気軽に読み始めたところ度肝を抜かれました。と言っても中学生当時の僕にはその全容を理解することができず、後に誇張なしで6周くらいは読み直しました。その度に新たな発見があり、宮﨑氏の才能に恐れ慄いたものです。

ナウシカの魅力を解剖

はじめに、この記事ではストーリーの要約はあまり意味がないのでしません。漫画を読んでおらずストーリーの概要が知りたい方はwikipediaをご参照ください。
僕なりにナウシカの魅力を3つに集約してみました。

  • 緻密すぎる世界設定と、見たことのない造形を可能にする圧倒的画力

  • 残酷な戦争描写と、深いメッセージ性が込められたプロット

  • それぞれに主義を持った魅力的な登場人物

それぞれ語っていきます。

緻密すぎる世界設定と圧倒的画力

ナウシカの魅力を語る際、まず伝えたいのはやはり世界設定の緻密さです。

ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は
数百年のうちに全世界に広まり、巨大産業社会を形成するに至った。
大地の富をうばいとり大気をけがし、生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は、1000年後に絶頂期に達しやがて急激な衰退をむかえることになった。
「火の7日間」と呼ばれる戦争によって都市群は有毒物質をまき散らして崩壊し、複雑高度化した技術体系は失われ、地表のほとんどは不毛の地と化したのである。
その後産業文明は再建されることなく永いたそがれの時代を人類は生きることになった。

「風の谷のナウシカ」ワイド判第1巻冒頭より

物語は冒頭のこの記述から始まります。ちなみに真のナウシカ好きたちはこの文章を見ただけで脳汁が出ます
察するにナウシカの世界は今の我々が暮らしている地球の文明から地続きであり、西暦で言うと3000年〜4000年あたりの時代設定なのではないでしょうか。つまりナウシカはファンタジーではなく、歴としたSFなのです。
その世界の海は生物が住めないほどに汚染され、有毒の胞子を撒き散らす巨大な菌類の生物群集"腐海"に土地の大半が没しています。腐海では巨大な蟲たちが独自の生態系を築いていて、ナウシカはその生態系や腐海そのものの存在意義を研究しています。
驚くべきは、腐海の樹木一つ一つにも名称があり、その植生や何日で樹高がどれくらいになるのかまで緻密に設定されていること。腐海に住む蟲たちについても同様で、棲み分けや食物連鎖なども細かく設定されています。

ワイド版風の谷のナウシカより 腐海の植物の設定詳細図

架空の世界ながら現実と錯覚するようなリアリティを持った世界設定が前提としてあることで、物語により深く没入することができるのです。
また、産業文明が衰退した世界でありながら風の谷のナウシカには大小様々な航空機が登場します。そこにも機体のディティールや設定があり、矛盾は全く感じられません。
生物学、歴史・文化人類学、航空工学から科学まで・・・一体どれだけの知識素養があればこの世界を構築できるのか。凡人には想像もできません。
そしてデザインがまたかっこいい。生き物を描いても人工物を描いても、それが持つかっこよさや美しさ、または滑稽さや醜さまでも表現する圧倒的な画力も兼ね備えています。

「風の谷のナウシカ」魅力①まとめ
・様々な学問的知識に裏打ちされる、リアルで壮大な世界設定
・空想に立体的な手触りや表情を吹き込む高い画力

残酷な戦争描写とメッセージ性が込められたプロット

残酷な戦争描写が魅力というと語弊が生まれそうですが、残酷だからいいというわけではもちろんなく、「戦争」というテーマを綺麗事として描かかないことに意義があります。
そもそも映画しか見ていない方はナウシカで「戦争」と言われてもピンとこないかもしれません。実はナウシカは戦争漫画なのです。
ナウシカの世界ではトルメキア王国と土鬼(ドルク)諸侯国連合という二大強国が世界の覇権を巡って戦争を繰り広げています。ナウシカ達が住む辺境の小国はトルメキアとの同盟を結んでおり、国の族長であるナウシカはトルメキア側に立って従軍します。

ワイド版風の谷のナウシカより 土鬼兵たち

トルメキアは軍国主義の先進国、土鬼は神聖皇帝という怪しげな呪術師を頂点とする宗教国家。国家間の利権争いに巻き込まれた一般市民の悲惨な末路や、生命を愚弄する生物科学兵器の存在など、戦争の闇の側面がしっかりと表現されています。
争いごとは当事者になると、つい一方の視点で捉えてしまうもの。自分の対極の存在はすなわち「敵」となります。しかしナウシカでは両者の視点で戦争が描かれるので、一方を断罪することができないのです。戦争から波及して人種差別や宗教論争など、現代社会に共通する問題を内包し骨太な物語に昇華されています。
また、作品全体に通底しているのは「自然と人間の関わり方」や「人間の美しさと愚かさ」といった恒久的なテーマです。これらのテーマはその後の宮﨑アニメ作品にも引き継がれていき、「もののけ姫」にて集大成となるわけですが、漫画「風の谷のナウシカ」が最も深く切り込んでいるのではないでしょうか。
さらには物語終盤で世界が根幹からひっくり返るような驚愕の真相が用意されていたりと、単に読み物としても非常に秀逸な作りになっています。この辺はネタバレ込みだと優に一晩語り明かせるのでここではこれ以上は踏み込まないでおきます。

「風の谷のナウシカ」魅力②まとめ
・戦争を綺麗事として描かず、正面から戦争の闇の側面を伝えている
・「自然と人間の関わり方」や「人間の美しさと愚かさ」といった恒久的なテーマに切り込み、どんでん返しも用意されている

魅力的な登場人物

そして絶対に外すことのできない魅力が、登場キャラクターです。
7巻というボリューム的にはそこまで長くない物語の中に、大量の人物が登場します。名前は全員聞き馴染みのないカタカナなのですが、デザイン上の書き分けが上手いのと、それぞれのキャラにバックボーンや主義があり愛着が湧きます。
風の谷のナウシカに登場する人物は皆それぞれそれぞれに正義があり、またそれぞれに不足を持っています。完全なる悪役は登場せず、立ち位置上の悪役にも彼らなりの想いがあり憎めません。そしてそれはナウシカでさえも例外ではありません。人種の隔たりなく人を尊び、腐海の蟲達でさえ愛でる女神のようなナウシカにも欠けた部分、そして罪があるのです。ナウシカはそんな自分自身の在り方に悩み、葛藤していきます。
優れた作家が描くキャラクターに共通することですが、一面的でなく多面的な人物造形がされており、全員に血が通っているのです。読者はナウシカサイドにも、トルメキアサイドにも、土鬼サイドにも立つことができるので、よりこの世界の複雑さや戦争の業深さについて考え込まされます。
ちなみに僕の推しキャラクターTOP3はクシャナ、クロトワ、神聖皇帝ナムリスです。

ワイド版風の谷のナウシカより 神聖皇帝ナムリス

「風の谷のナウシカ」魅力③まとめ
・千差万別のキャラクターが物語を彩る
・多面的で血が通った人物造形



さて、今回は風の谷のナウシカについて語ってみました。
ナウシカ好きにもそうでない人にも少しでも興味を持ってもらえたら幸いです。
LOCKER ROOMのオフィスにはナウシカだけでなく大量の漫画があります。
気になった方は是非オフィスまで遊びに来てくださいね。

それではまた!

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