無題

情報の豊かさは注意の貧困をもたらす。アウトプットから始めましょう。

先日、ソーシャルネットワークとコミュニティの違いに関するお話を書きましたら、社会学の先生から「コミュニティは正規分布ではないのでは?」というツッコミがございました。ご指摘ありがとうございます。m(_ _)m フィードバックがあると、書きものをするときの励みになります。とはいえ、ボコボコにされると風船みたいに萎んでしまいますので、お手柔らかにお願いします(笑)

夫の芸風は「擬(ポンコツ)」でして、自分自身を「ひょっとこ」だと思っております。生まれ育ちは播州曽根なのですが、親父殿がお隣の播州大塩でございまして、小さな頃から秋祭りで獅子舞を観て育ちました。夫が好きなのは、「ひょっとこ」のいる獅子舞でして、獅子が舞っているのか、ひょっとこが舞っているのか、よくわからないところが良いのですね。


これが闘牛士だと人間が牛をコントロールするわけですが、ひょっとこの場合は、獅子に噛まれたりする(笑)お客さんは獅子を観にきているのですが、なんともいえぬ愛嬌のあるひょっとこが一緒に踊っていると、こわい獅子にも愛着が湧いてくる。まがいものを通じて、オリジナルの良さが醸し出されてくる。そんな芸風を目指しております。

○情報の豊かさは注意の貧困をもたらす

本日のテーマは「情報の豊かさは注意の貧困をもたらす」です。

アメリカ合衆国の政治学者・認知心理学者・経営学者・情報科学者であり、ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンさんが「情報の豊かさは注意の貧困をもたらす」という名言を残しています。

情報の豊かさは注意の貧困をもたらす

コンピュータの処理能力はどんどん進歩していますが、人間の脳のキャパシティは変わりません。人間の脳の処理能力には一定の限界があります。その制約のもとで、いかにしてパフォーマンスを向上させるのかが問題になります。

ホワイトボードをご覧ください。X軸に情報量、Y軸に知恵の量になります。最初の内は、情報量が増えるにつれ知恵の量が増えますが、一定のラインを超えると、知り過ぎ状態になって知恵の量が減少します。こちらの図は、安宅さんの「イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」」から抜粋したものですが、知り過ぎると考えなくなるのは直感的にも納得がいきますね。

現在社会は、大量の情報が氾濫する時代ですが、データと情報が入り混じった複雑な状態になっています。コンピュータにはデータが必要ですが、人間には意味と文脈が与えられた情報が必要です。ただ、そこにあるだけでは単なる情報(いわばデータ)でしかなく、人間がアタマを使って情報に関わって、はじめて意味を持った情報になります。

人間と情報をつなぐ結節点となるのが「注意」(attention)です。人間が情報に対してなんらかの注意をもつからこそ、情報がアタマにインプットされ、脳の活動を経て、意味のあるアウトプットへと変換されます。

要するに、「情報」と「注意」はトレードオフの関係にあるわけです。
洪水のような情報量の増大が起きているということは、注意の貧困もまた果てしなく広がっているということです。そこで、貧困になる注意をいかに復興させるかが、重要な論点として浮かび上がってきます。

「情報」と「注意」はトレードオフの関係にある。

○知覚され、認識され、理解され、記憶される

再び、ホワイトボードをご覧ください。情報が人間の脳に知覚、認識、理解、記憶されるプロセスを描いています。

まず「知覚」のプロセスを見てください。人間の脳では、あるレベルを超えない信号は意味を持ちません。確かに、なんでもかんでも取り入れていたらアタマがパンクしてしまいますね。余計なものは取り込まない。それが脳の基本的な構造になっているようです。エコなシステムですね。この知覚のプロセスが、注意(Attention)の中心でしょう。

あるレベルを超えない信号は、意味を持たない。

つづいて、「認識」のプロセスでは、不連続な差しか認識しないようです。何かのそれと分かる「違い」がなければ、脳は反応しないわけですね。同じものは認識する必要がない。無駄なエネルギーは使わない。茂木さんのアハ体験だったと思いますが、何かの絵を非常にゆっくり連続的に変形させると、その変化に人間は気づかないというTV番組を見たことがあります。最初と最後の絵を見ると違いは明白なのですが、連続的な変化させると気づかない。人間の目とか、脳というのは、案外頼りないものだなと感じた記憶があります。

不連続な差しか、認識されない。

そして認識した情報が、他の異なる情報とつながることが「理解」です。理解するとは、2つ以上の情報がつながることだったのですね。イメージとしては、シナプスがニューと伸びてつながっていく感じですね。何かの本で読んだのですが、植物の根っこの成長が、脳のシナプスの成長に似ているそうです。ベランダで植物を育てていると、何か親近感を覚えるのは、脳に構造が似ているからなのかもしれませんね。

理解するとは、2つ以上の情報がつながること。

最後に「記憶」です。利用しない情報を捨てることで、シナプスのつながりが安定化します。それが、記憶として残るわけです。何度も繰り返して利用することで、つながりが安定して記憶に定着するわけです。昔から、学習には繰り返しが大事と言われてきたのは、脳の構造がそのようにできているからなのですね。

記憶するとは、利用しない情報を捨てることで安定化すること。

夫は、この学習のプロセスが「成長」「優先的選択」という2つの特徴をもって行われることから、人間の脳は「ベキ法則」に従うスケールフリー・ネットワークになるのではないかと思っています。すなわち、大多数のニューロンは少数のリンクしか持ちませんが、一部の莫大なリンクをもつ「ハブニューロン」が表れてくるのではないかと思うのです。それが本質だったり、真理だったり、神と呼ばれるようになる気がします。

参考URL:https://syodokukai.exblog.jp/20771928/

夫の好きな作家の佐藤優さんが、神学の世界には「総合知に対立する博識」という格言があると言っております。断片的な知識をいくらたくさん持っていても、それは叡智にならないということです。断片的な知識をいかにつなげて「物語」にするかが、有識者の課題になります。脳の構造を考えると、腑に落ちるところがあります。

断片的な知識をいくらたくさん持っていても、それは叡智にならない。

○インプットではなく、アウトプットからはじめる

夫の好きな楠木建先生の受け売りですが、私達が情報をインプットする目的は大きく分けて二つあります。一つはインプットそれ自体のため、もう一つはアウトプットを生むためです。前者を「趣味」、後者を「仕事」と定義しています。

趣味と仕事の違いは明確です。趣味は自分のためにやること、仕事は人のためにやること。趣味であれば、情報のインプット自体が目的なので、いくらでも情報収集すればいい。ところが、人の役に立つ成果が生み出されなければ、仕事とはいえません。自分では仕事と思っていても、漫然と情報をインプットしているだけで、アウトプットが出なければそれは趣味の領域です。

趣味は自分のためにやること、仕事は人のためにやること。

アウトプットを目的とした仕事であれば、自分が注意を向けられる対象は数が限られてきます。夫がいま気になっているテーマは「非物質化による秩序の形成」「関係人口を増やすための方法論」「断片化されたアイデンティティの統合」で、かなり抽象的かつ流動的ではありますが、3つくらいに絞っています。

以前は趣味の読書でしたので、それ自体が楽しかったのですが、最近はもの書きをするようになったのでスタイルを少し変えました。注意のフィルターを絞って情報をインプットすることで、後工程のアウトプットにつながることを実感しています。

注意のフィルターを絞って、情報をインプットする。

昔、上司に「勝手に仕事をつくるな」と怒られたことがあります。達成すべき成果、生み出すべきアウトプットの明確なイメージなしに、とにかく忙しく働くために余計な仕事をつくっていたのです。何か仕事をしたという達成感を味わいたかっただけかもしれません。

あらゆる仕事はアウトプットを向いていなければならないのです。情報のインプットを増やしていけば、自然とアウトプットが豊かになるということは絶対にありません。情報と注意のトレードオフを考えると、情報の増大はわりと悪質な敵なのです。最後は、P.F.ドラッカーの言葉で締めたいと思います。

「基本的なこととして、成果すなわち仕事からのアウトプットを中心に考えなければならない。
 技能や知識など、仕事へのインプットからスタートしてはならない。それらは道具にすぎない。
 いかなる道具を、いつ何のために使うかは、アウトプットによって規定される。
 作業の組み立て、管理手段の設計、道具の仕様など、必要な作業を決めるのは成果である。」

いかがだったでしょうか。皆さん(妻)はどう思われますか。

○本日のおすすめ本

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」
安宅和人 (著)
単行本(ソフトカバー): 248ページ
出版社: 英治出版 (2010/11/24)

好きなようにしてください―――たった一つの「仕事」の原則
楠木 建 (著)
単行本(ソフトカバー): 432ページ
出版社: ダイヤモンド社 (2016/2/5)

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則
ピーター・F・ドラッカー (著), 上田 惇生 (翻訳)
単行本: 302ページ
出版社: ダイヤモンド社; エッセンシャル版 (2001/12/14)


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