和光・まつたかパン|正統派バゲットから個性派パウンドケーキまで
食と旅の雑誌『Hanako』2023年11月号「美味しいパンには、理由がある」に掲載されていたのをきっかけにまつたかパンを知りました。
ちょうど東武東上線沿線のパン屋が気になっていたとき。ペラペラとページをめくっていると、埼玉・和光市に店を構えるまつたかパンに目が留まります。
飽きのこない食事パンであっても、独特の食感をもたせたパンを展開していると聞いて心がくすぐられます。休日の朝に訪れてみれば、小麦のこだわりや組みあわせる素材で個性を光らせたパンがずらりと並んでいました。
まつたかパン
2023年7月6日、地域の日常に密着したパン屋をつくりたいとの思いから、オープンしたまつたかパン。
吉祥寺の名店・ダンディゾンにて13年修業した松鷹俊大(としひろ)さんと、ローズベーカリーやヨヨナムで調理担当をしていたともみさんご夫婦が営んでいます。
パン屋をはじめるとき「素朴だけどなんかおいしいそういうパンやお菓子を作りたいね」とふたりで話していたとのこと。その言葉通り、毎日のくらしに寄りそう定番のパンから、食べてみたい! とわくわくするパンまでそろう、幅広いラインアップです。
店内は3組まで入店できるルールが設けられています。パンの大半はショーケースに陳列されていて、衛生面において安心して購入できる環境です。
店内を構成する木と焼きたてパンの香りが鼻腔をくすぐり、わくわく感がつのります。明るくて温もりのあるライティングに、のれんをさげたレイアウトから、ほっと落ち着くウェルカムな雰囲気です。
開店時間の9時前に到着すると、すでに2組並んでいました。店員さんとの会話から、どうやらご近所の常連さんのよう。オープンして間もない若々しいパン屋でありながら、着々と地元民の心をつかんでいるようです。
ハード系だけじゃなく焼き菓子にも惹かれる
まつたかパンのショーケースをながめると、魅力的なワードがちりばめられた焼き菓子にも興味がわいてきます。
ハード系から焼き菓子まで、どれをとっても小麦の旨みが感じられ、素材がもつ力強さと個性を感じるパンたちです。
オープン当初に使っていた北海道・庄司農場のキタノカオリから変わり、現在は栃木県・アオヤギ製粉の有機ゆめかおりを使用。玄麦を自家製粉するこだわりがこめられています。
そのままいただくと、パリパリっとクラストの小気味よい音が聞こえてきます。めいっぱいの力で噛みちぎるくらい、ひきの強い堂々とした構え。噛み進めていくうちに、小麦の香りと発酵の豊かさがふくらみ、じゅわっとあふれだすように旨みが伝わります。
リベイクするとふわっとやわらかさが加わり、食べやすくなりました。香りが引き立つことで、奥底にライ麦のようなかすかな酸味を感じます。
比較的細いシルエットなので、食べきりやすいサイズにぶつぎりにして、棒をもつようにして食べるワイルドスタイルで食べちゃいました。
「オーガニックサンマスカットレーズン、クランベリー、カシューナッツ、くるみ、国産ゆずピール入り」とそえられた一文にときめきを感じました。
どこをかじってもドライフルーツとナッツの存在をびしびし感じる贅沢感。国産ゆずピールによる柑橘のさわやかな酸味は、生のようにフレッシュでフルーティな風味がぶわっと広がります。
ダークレッドが目印の、ジューシーで甘酸っぱいクランベリーにあたると、ラッキーな気持ちになります。
みちっとしたひきのある生地により、じっくりかみしめたくなるおいしさです。
大粒のナッツのコリコリとした食感がアクセントになり、ミルキーな甘みと適度な油分が生地とドライフルーツを引きあわせてくれます。
「全粒粉」という言葉に目がなく、まんまと手が伸びたスコーン。バゲットと同じく、栃木県・アオヤギ製粉の有機ゆめかおりが使われています。スコーンは奥さまであるともみさんが手掛けているとのことです。
バターのコクと全粒粉の香ばしさが混ざりあい、ナッティーな香りすら感じます。甘みは控えめで、全粒粉の素朴な旨みが広がるパン屋らしいスコーンです。
ホロホロ崩れていきますが、たっぷりと使われたバターによってしっとりとした食感。口のなかの水分がもってかれる~! という食べ心地を感じず、アメリカ式スコーンがあまり得意ではないわたしもおいしく食べられました。
『Hanako』でピックアップされていたのがこちらの自家製カレーパンでした。
店主自ら工場見学にいくほど惚れた素材、岐阜県・山のハム工房 ゴーバルの粗びき豚ミンチ肉が使われています。
カレーフィリングは、煮詰めたように水分が飛ばされドライカレーのよう。ひき肉たっぷり・旨みたっぷりでキーマカレーに近い味わいです。あとからふわっと辛さを感じます。
ぽっかりと空洞ができるくらいふんわりと焼きあげられていて、上はパリッと、土台はもちっちりふわふわな食感です。両手でわしづかみにして半分に引きちぎりたくなるような、食感のコントラストを楽しめます。
普段はパン屋さんで焼き菓子を購入することはありませんが、コーヒー×カルダモンの組みあわせが気になり購入しました。
想像以上にカルダモンがガツンときてびっくり。コーヒーベースのビターな味わいに、カルダモンのエキゾチックなスパイシーさがクセになります。
香りも味も人を選びますが、ハマる人にはハマるはず。深煎りのコーヒーと一緒に、少しずつ食べたいパウンドケーキです。
日常にちょっとスパイスをくれるパン屋
まつたかパンでは、オレンジの灯りにライトアップされたパンたちが出迎えてくれます。
ガラス戸でなかの様子がみえやすく、立ち寄りやすい雰囲気。街になじむ、親しみやすさのあるパン屋です。
狙っていた"大人のチョコパン"と称される「カカオ」がなかったのが残念ですが、また訪れる理由になりました。次回もハード系パンと焼き菓子を選びたいな。