輪廻の風 (9)


「何だあの黒船は!?」

窓際に座っていた客の男が、外を見ながらそう叫んだ。

するとラーミアは突然立ち上がり、窓際まで走った。窓から黒船を確認すると、ひどく怯えた様子だった。

エンディは急いで、ラーミアの元へ駆け寄った。エンディに続いて他の客も、店員さえも、外の様子を見ていた。

どうやらあの大きな音の正体は、黒船の汽笛のようだ。

「あれは、インダス艦じゃねえか。」

この店の名物の1つであるドレッドヘアで筋肉質なオーナーがそうつぶやいた。

「インダス艦?それって旧ドアル軍の?」

「そうだ、あの黒船、俺も見たことあるぞ!間違いない!なんでこんなとこに?」

店内がざわつき始めた。

ラーミアはガタガタ震えていた。

港に数隻停泊している漁船がちっぽけに見えるほど、巨大な船だった。

まるで大きな黒鉄の塊のようだった。

「まさかあの黒船が?」
エンディは状況を理解すると、会計することを忘れて、ラーミアの手を引っ張り店を出た。

外に出ると、みんなが船を見に集まっていた。街は物々しい雰囲気に包まれた。

「まさか、ラーミアを探しにきたのか?」

「…うん。そうだと思う。」

船から柄の悪い恰幅のいい大男が、戦闘服のようなものを身に纏い銃を持った男たち20人を引き連れてぞろぞろと降りてきた。

「逃げるぞ!ラーミア!」

「待って、でも…」

「どうした?」

「私のせいで街の人たちがひどい目に遭わさせるかもしれない」

ラーミアは泣きそうな顔でそう言った。
エンディは焦った。どうすればいいのか分からなかった。

そうこうしているうちに、大男たちは海岸から街へと侵入していった。

大男は肩で風を切るように堂々と歩き、後ろに引き連れている兵隊たちは両手に銃を持ちながら足並みを揃え行進していた。

すると気性の荒そうな屈強な漁師たちが10人、侵入者の前に立ちはだかった。

「何しにきたコノヤロウ。おめえたちドアル軍の残党か?」

「オレ達はラーミアって小娘を探してんだ。この街に来てないか?」

大男は大きな声で、目の前の漁師達を含めたその他大勢の野次馬たちに、威圧するように問いかけた。

この大男が、この集団の頭領だろうと、その場にいた全員が満場一致でそう思ったに違いない。

180を超える長身、髪型は両サイドをツーブロックに刈り上げたオールバック、鋭い眼光、そして口髭を生やしていた。

体格が良かったが、決して筋肉質というわけではなく、どちらかと言うと肥満体型だった。

この男の全身からは粗暴性の強さが滲み出ていた。

気性の荒い漁師達も、圧倒され怖気付いてる様子だった。

「そんな小娘知らねえな、さっさと帰ってくれ!」

漁師の1人が、冷や汗をかきながらそう叫んだ。

「ダルマイン提督!あれを見てください!」

大男が引き連れている兵隊の1人が、沖合いに泊まっている小さな木造船を指さしてそう叫んだ。

「あれは間違いなく、ラーミアと共に姿を消した備え付けの脱出ボートです!」

「なんだよ、あるじゃねえか。やっぱオレの読み通りだったな」
ダルマインはニヤリとした。

「てめえら、しらみ潰しに探せ!保安隊や軍隊が来ねえ限り銃は使うな!」

「はい、提督!」

ダルマインがそう命令すると、20人の兵隊達は銃を腰にさし、目の前の漁師たちを呆気なく蹴散らした。そして瞬く間に街へとなだれ込み、ラーミアの捜索が始まった。

怒号を発しながら市場を荒らし、家屋を荒らし、やりたい放題だった。邪魔をしようとする市民には、容赦なく暴行した。

「そんな、ひどい・・・。」

ラーミアは悲痛な気持ちになった。

「何してんだよラーミア、あいつらお前を探してんだろ?早く逃げよう!あんな危ない連中に捕まったら何をされるか・・・」

「だって、私のせいで街の人たちがこんな目に遭ってるんだよ?それなのに私だけ逃げるなんてできないよ!」

エンディが何度も一緒に逃げようと促しても、ラーミアは聞く耳を持たず、ただ怯えて立ち尽くしていた。

「どうすりゃいいんだよ・・・!」

エンディは混乱した。

相手はたったの20人だったが、あまりの凶暴さと、銃を所持していることを理由に、最初は抵抗しようとしていた街の住人達も、恐ろしくなってどんどん逃げ出していた。

中年腹のドクターとその妻も、丘の上の病院からその様子を見ると、脇腹を押さえながらゼェゼェと息を切らしながらさらに高台へと向かい走り出していた。

しかし、パウロは立ち向かった。

「逃げるな!みんな!」

パウロはたまたま、市場に買い物に来ていた。
そして運悪く、こんな最悪の事態に巻き込まれてしまったのだ。

「おい、あのじいさん何してんだ?」

「ジジイ、あんたも早くにげろ!」

街を荒らす男達を、何もできずただ眺めているだけの住人達が、ざわつきだした。

腰の曲がったパウロは、近くにいた敵の兵隊の頭を、持っていた杖で力いっぱい叩いた。

「この老いぼれが、何しやがるっ!」

たいして痛くないはずだが、この地味な攻撃がこの兵隊の神経を逆撫でした。

パウロは蹴り飛ばされ、倒れた。

「ようコラ、クソジジイ。舐めた真似してくれたなあ?ぶっ殺してやるぜ。」

パウロの顔面を踏みつけながらそう言い放つと、腰にさしていた銃を抜き、パウロの頭に銃口を向けた。

逆上した男が引き金を引こうとした次の瞬間、エンディの強烈な飛び蹴りが炸裂した。

男は吹き飛び、白目を向いて失神した。




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