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なぜ高齢者の「できること」を奪う介護従事者がいるのか?

介護サービスは、対象となる高齢者が「できないこと」を支援することで、これまでの日常生活を送っていただくことを目的としている。

これまで通りの日常生活を送れるということは大事である。ご本人の安心感にもつながるし、支援を通じてご本人が「できること」にも向かい合う機会にもなるので自尊心の保持にもつながる。

しかし、介護従事者が良かれと思って「できること」もやってしまうことがある。「ついでにコレもやっておきますねー」とか「座ってていいですよー」など親切心100%でやってしまう。
悪気はないのは分かるが、これはプロフェッショナルとしての介護の目線で言えば、自立支援の原則に反している。

自立支援とは「できることはご本人に行っていただき、できないところを介護者が支援する」というものだ。「できること」もやってしまうということは、「できること」を奪っているということでもある。

良かれと思ってならまだ分かる。中には自分の業務を早く終わらせたいという理由だけで、ご本人が「できること」を進めてしまうこともある。
特に高齢者の動きは緩慢なので、それに耐えきれずに「もー、こっちは忙しいんだから早く動いてよ! ああ、もういい、こっちでやるから!!」といった具合だ。

これを飲食店で例えるならば、ランチタイムという多くのお客さんが殺到する時間帯において、ウェイターが「こっちはクソ忙しいんだから、昼飯なんか食いに来てんじゃねーよ!」と暴言を吐いているようなものだ。

それはもはや、「できること」を奪っているといった介護職としての基本以前の話である。仕事の目的やお客さんという存在を忘れた、自分勝手な考え方をしているだけである。


■ 「介護してやっている」という誤解


では、なぜこのようにお客さんである高齢者に対して、感情的になってしまう介護従事者はいるのだろうか? これは本ブログでもいくらか書いてきたが、改めて簡単にお伝えすると次のような理由が挙げられる。

――― 1つは、「介護してやっている」という勘違いである。

人間は弱者を目の当たりにすると、どこからで攻撃したい心理が湧き上がる。しかも、介護を要する高齢者は確実に何かしらのハンデを追っているため、介護者がいないと日常生活に支障が出る。

そのことを知ってから知らずか、介護従事者の中には「自分がいないとこの人は何もできない」という(愚かな)マウントをとり、それが「介護してやっている」という勘違いを生んでいるのだ。

これは上記の飲食店の例えで言えば、ご飯を食べに来たお客さんに対して「こいつらは自分が作らなと飯を食えないんだ」と思っているのと同じである。

少し言葉が悪くなるが、何というアホな考え方だと思わないか?
しかし、このような考えをする人がいるから困るわけだ。


■ 距離感を間違えた無礼さ


――― もう1つは「距離感が近くなっている」ことからの礼節さの欠如だ。

多くの人は、初対面のときはお互いに失礼のないように振る舞う。それが顔を合わせたり話したりする回数が増えるごとに共通の話題も生まれ、お互いのことを分かるようになる。

しかし、「親しき仲にも礼儀あり」というのは言葉通りであり、相手のことを知った気分になって迂闊なことを言ってしまったばかりに、関係性が一気に壊れてしまうことがある。

営業マンが慣れてきたあたりで調子に乗ってしまい、お得意先から雷を落とされたり取引中止となる場合もある。こうならないように、礼節をもつための距離感は大切なのだ。

ところが、介護サービスにおいてはお客さんである高齢者が「できないこと」をやってもらっている後ろめたさから、介護従事者が失礼な態度をとっても苦情を発しにくいことがる。

それに気づかないまま「こういう態度をとってもいいのか」「慣れ親しい言葉を使えば相手は喜ぶ」と余計に礼節さを欠いた距離感をもって、介護サービスを対象となる高齢者に行うようになる。もう悪循環しかない。

その結果、最初は「言いやすい関係」と思っていたのが、介護従事者の都合や気分によって暴言めいた言動をしたり、「できること」をやってしまうことになる。

それは自立支援という話ではなく、ときには虐待行為とみなされてもおかしくない。


――― 介護サービスを提供するならば、ちゃんと高齢者の「できること」に目を向けなければいけない。

緩慢な動きの高齢者であっても、「できること」を果たすまで待つことも介護の仕事であり、ご本人の自尊心の保持にもつなげるための重要なプロセスだ。

ここまで言っても「忙しいからそんな暇はない」というならば、辛辣な言い方となるが、残念ながら介護の仕事はやめたほうが良いと思う。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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