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移乗介助が苦手なのは当たり前。それは介護者が日常でやっていない動作だから

介護では「移乗」という介助がある。

身体状態から単独では移動することが困難な高齢者に対して、介護者が行う動作支援の1つである。

例えば、ベッドから車椅子で移動して、トイレで排泄を済ませたらまたベッドに戻るというケースを考えてみると、次のようになる。

――― まず最初の移乗は、ベッドから車椅子に移る動作である。
――― 車椅子でトイレに向かい、今度は車椅子から便器に移る。
――― そして排泄を済ませたら、便器から車椅子に移る。
――― 最後に、車椅子でベッドまで戻ると、車椅子からベッドに移る。

・・・と、このケースでは計4回の移乗介助が行われたことになる。

ここでは支援対象の状態を考慮しなかったが、手すりやベッド柵につかまれば立ち上がれる人もいれば、途中まで立てるので一部介助の人もいる。そして移乗すべてが全介助の人もいる。

また、上記の例ではトイレで排泄をする想定であるが、トイレでなくオムツで排泄をするので 車椅子 ⇔ 便器 の移乗介助は行われない人だっている。

それぞれの状態によって介助法も異なるので、あくまでここでは移乗介助のイメージが伝われば幸いである。




さて、移乗は介護において必要な介助の1つである。

しかし、この移乗介助を苦手とする介護者は多い。

そのため、移乗に関するテキストやセミナーは多々ある。それだけ介護従事者が頭を抱えるニーズあるテーマなのだ。

昨今では識者による動画配信もたくさんあるので、私も以下のような動画を眺めては日々試行錯誤をしている。


とは言え、このような教材があっても、いざ実践するとなるとリスクを感じてしまう介護従事者たちの気持ちも分からなくはない。

おそらくだが、事故に対する恐怖心もあるだろうが、それ以上に学習したところでいざ実践となると「あれ? どうするんだっけ?」となってしまうことが移乗に対しての苦手意識を助長していると推察される。

――― では、なぜ「あれ? どうするんだっけ?」となってしまうのか?

おそらくこの点に移乗に対する苦手意識の原因があると思う。



 

そこで、色々と考察した結果として分かったことは、移乗技術が乏しいとか、ボディメカニズムの知識が浅いといったスキル的な要素とは違うということではある。

どちらかと言えば、移乗介助を要する人たちの生活動作のイメージができていないことに根本的な原因があると思う。

移乗介助を要する身体状態の方々は、その活動範囲が狭くなってしまう。そのため、介助者による移乗により活動範囲は広くすることができる。

しかし、活動範囲を広めるとなるには「移乗」というステップを踏まなければいけなくなる。上記の例で言えば、ベッド⇒車椅子⇒便器⇒車椅子⇒ベッドという流れである。

ここで介助者がイメージできていないのは、1つ1つの「超短距離」の移乗動作である。

――― では、なぜイメージができないのか?

それは、介助する人たちは日常生活において、ベッドと車椅子の間のような「超短距離」を体ごと移動するという動作をしないからだ。




そもそも移乗とは安全面の考慮からも、その距離は短いほうが良い。
それを意識せずとも、ベッド と 車椅子の間は1.0mもないだろう。車椅子と便器との間だって同様だ。もしもこの間の距離が長くなれば、それは移乗介助というか”移送”介助になってしまう。

しかし、介護者を含めた健常者は、1.0mも満たない「超短距離」の間を自分の肉体ごと動かすという動作を日常ではしない。

そのような場面があるとすれば、せいぜい自宅のソファで座る場所を変えたり、電車の席を詰めたりする程度だろう。

さらに、1.0mも満たない「超短距離」を体ごと動かして、いくつかの中継地点を幾度か経て目的地に到達するということはしない。それは、そんなことをするくらいなら、立って歩いたほうが早いからだ。

しかし、移乗介助を要する人たちは、自らの足で立って歩くという動作ができない。だから介護者の手を借りて、「超短距離」を移乗しながら目的地に向かう。排泄をするためにベッドから車椅子に移り、車椅子から便器に移り、ようやく排泄ができる。それが済んでからも、ベッドに戻るために逆の移乗動作をしなければいけない。

つまり、移乗介助を要する人たちにとっては、1つ1つの目的を達成するために「超短距離を肉体ごと移動する」という繰り返すことが日常なのだ。

この「超短距離を肉体ごと移動する」ということを日常で行っていない人たちが介助しようとしたところで、相手に必要な動作イメージがつかないから「あれ? どうすればいいんだっけ?」となるのだ。

これこそが、介護者が移乗介助を苦手とする根本的原因ではないだろうか?




何だか乱暴な理屈の記事となってしまったが、スキル以外の原因を考えてみたときに、やはり健常者(介護者)が体感していないこと、日常でその動作をしていないことからイメージがつかないことはあると思う。

個人的にはスキルとは、学習 と 実感(イメージ)を掛け合わせたものと思っている。だからこそ、学習だけでは追いつけない部分をいかに埋めるのかがポイントになると思う。

今回で言えば、実感(イメージ)を養うためには自らが介護対象者となって移乗”してもらう”ことを経験するのが一番だと思う。

ベッド⇒車椅子⇒便器⇒車椅子⇒ベッドという流れを、独りでもいいからやってみれば、その動作の意味が分かると思う。さらに、立ち上がり方やどのような介助をしてもらえれば動きやすいのかも見えてくる。

もちろん、介護を要する人たちと全く同じ目線には立てない。
しかし、日常で自分たちがやっていないこと、つまりイメージできないことを理解に近づけるには、やはり自らの肉体を使ってやってみることをお勧めする。

ちなみに私は上記でご紹介した動画を見て自分で移乗の動きを何度もやった。何なら、別なテーマで言えばオムツを装着したこともある。車椅子を自走したり押してもらったりという経験も面白かった。

移乗に限らず、介護技術を楽しみながら学習していただければ幸いである。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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