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介護でICT導入を考えるならば、現場から組織全体につなげる思考をもつ

■ 介護は「介助」だけにあらず


介護というと、身体機能が低下した高齢者に対してお手伝いするイメージがあると思う。誰もが思いつくのは、オムツ交換や入浴介助、買物や通院の付き添いといったところだろうか。これはベテランの介護従事者であっても、介護の仕事と言えば上記を思い浮かべる傾向にある。

しかし、このような高齢者の身体に触れるような仕事は、厳密に言えば介護というよりも「介助」の括りである。
翻って言えば「介護の一部に介助がある」とお考えいただきたい。

別に言葉の揚げ足をとりたいわけではないが、介助だけを介護としてしまうと支援の本質がズレって「とりあえず介助だけしていればいいのだろう」という支援になってしまう。
それはおそらく、介護を受ける側も介護を行う側も違うと思うはずだ。

介護とはもっと広く多角的で総合的な支援である。身体的な介助だけでなく、高齢者の生活における課題や本人の要望などを分析し、現在の本人にとって最適な支援(サービス)を提供することになる。

そのため、介助という一側面だけだと介護として不十分と言える。


■ 介護の仕事は「現場」だけにあらず


これは介護という実業務だけに限った話ではない。介護サービスという仕事を行うにおいては、介護従事者だけがいれば良いというわけではなく、会社や事業所という組織が前提となる。
(組織と言ってピンとこないならば、職場と考えても差し支えない)

しかし、介護の話になると「現場」の話に焦点が向いてしまう。

これは仕方のない話である。高齢者介護というくらいだから、高齢者と直接関わることになる現場が中心となって話が進むのは自然なことだ。

そのため、介護業界の問題と言えば、人手不足や過重労働といった介護現場の話に終始してしまう。メディアも現場の過酷さを取り上げるし、商品やサービスも介護現場向きのものが中心となる。

――― ここで上記でお伝えした「介助」と「介護」の話につなげてみる。

すると、介護現場は介護と言う仕事の一側面であることが分かる。それは介護現場もまた、会社や事業所という組織の一部であるからだ。

言い方を変えると「介護の仕事は「現場」だけにあらず」ということだ。
経営者や管理者・施設長、事務員(今はオフィスワーカーと言うのか?)、資材や設備管理・・・様々な役割のもとに介護現場が活きてくる。

介護現場も含めた組織全体があってこそ、介護の仕事は行えるのだ。
高齢者に対して介護サービスというカタチで支援が行えるのだ。


■ 広く多角的に介護の仕事を捉える


さて、前置きのほうが長くなってしまったが、ここからが本題である。

介護業界においては慢性的な人員不足と過重労働にあるのは既知のことであり、それに対して国もICTの導入を推奨している。各メーカーから業務効率を円滑にするシステムも多数出ている。
しかし、介護現場のICT導入は進んでいない。まぁ、介護業界だけでなく行政も含めて全体的に国内での歩みが遅いのは否めない。

それでも誰もが人員不足も過重労働に対して、何かしらの解決策を望んでいるのは確かだ。それに対してICTの導入を提案しているわけだが、どうにも腰が重いのはなぜだろうか?
もちろん、デジタル機器への抵抗感もあるだろう。しかし、それ以上に腰が重い理由としてはICTを導入することによって、自分たちの介護の仕事がどう変わるのかがイメージできないからだ。

介護においてICT導入のイメージができにくい理由は、既存で提案されている内容が介護現場という一側面に寄っており、組織全体としての業務が一連化してないためと思われる。

介護現場だけだとどうしても、1つ1つの介助や記録作成というピンポイントな話に終始してしまうので、「それだけ解決してもなぁ」と思ってしまい結果としてICTの導入は見送りとなる。

もちろん、ピンポイントで痒いところに手が届くICTを導入することに意義はある。しかし、俯瞰して見たときに実は介護現場だけが問題なのではなく、組織全体としての問題点ということも多々ある。

ICTの導入においては介護現場だけで検討せず、組織として一連で考えてみることで活路が見出だせる可能性もあるのだ。

■ 介護におけるICTが可能な分野


とは言え、組織全体というと事業規模によって異なるので、どの組織にも適合するICT導入を提示するのは難しい。

そこで、あくまで大雑把であるが、介護現場も含めた介護サービス事業所における総合的な要素を以下のように並べてみた。

・利用者の状態観察や見守り

・現場内または各部署同士の情報共有

・面会や医療連携などの外部コミュニケーション

・申請書類や記録作成などの事務作業

・法令遵守や発注業務などの運営管理

・売上や経費、人事、資金調達などの経営業務

・データ分析及びプランニング

・スキル/キャリアアップとしての職員教育

・利用者への介助(サービス提供)

・利用者とのコミュニケーション

・介護職員へのメンタルヘルス   ・・・etc


こういうのは図式化するのが分かりやすいのだろうが、ここでは思いついたことをズラズラ書いているだけなのでご容赦願いたい。

しかしながら、このように並べてみると介護の仕事と一言で言っても、様々な仕事によって成立していると何となく理解いただければ幸いである。
介護現場だけに範囲を限定せずに、介護現場から組織内の各業務にいくらでも結び付けることができる。それはつまり、ICTを導入する意義を拡充できるという意味でもある。


■ 介護におけるICTが可能な分野


例えば、今まで介護現場と本部で電話や口頭で済ませていた備品発注などのやり取りを、チャットツールで済ませるという発想もできる。そうすれば、介護現場も忙しい中で電話応対する必要はなくなる。

スキルアップだって、介護現場で質の高いサービスを提供するには研修が大切であるのは誰でも知っているが、テーマによっては職員を集めて行う必要はない。だからこそe-ラーニングというものが出ているのだ。

特にコロナ禍を経てオンラインツールは一気に進化した。デジタルが苦手という職員であってもビデオ通話なんて普通にやっているだろう。それを仕事でも転用すればいいのだ。仕事で使うものだからって構える必要はない。
(メーカーさんだってサポートしてくれる)

それでもICTとかデジタルなどに嫌悪感を示すならば、せめて自分が所属している組織がどのように自分がいる部署(現場)とつながっているのか、自分が担当している業務と他の人が担当している業務がどうつながっているのかを把握するだけでも良いと思う。

そこで「こうしたらいいのでは?」という発想が出たら、最初のうちは口頭や用紙への手書きなど物理的な手順で行ってみればいい。そしてもっと簡便化できないかと思ったときにICTなどが有効になるのだ。

ぜひ、自分のいる場所だけに限定せず、少し広い視点で物事を捉える機会にしていただければ幸いである。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも感謝。

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