見出し画像

「間を空ける」と気分が変わる

高齢者介護において認知症ケアは重要なテーマである。

しかし、介護従事者の中には、相手の高齢者が認知症であると分かっていても、業務進行を優先するがあまり、押し付けるような介護をしたり、感情的にコミュニケーションをとってしまうことがある。

そうして「〇〇さんは食事中に手が止まる」とか「トイレ介助をすると急に不機嫌になる」といった不満を言うようになる。そして、問題行動や困難事例みたいな扱いにしようとする。

このようなとき、私は「間を空けなさい」と言う。

これは認知症ケアにおける基本であるが、相手が介護に応じないときには時間を空けて改めて介助を行うと意外にうまく進むことがある。

それは認知症の症状として、脳内または感情の波の振れ幅にポイントがあるからだ。

例えば、私たちは腹が立ったり悲しい気分になったとしても、何だかんだで2~3日も経てば落ち着く。
それどころか、イライラしたり気落ちしていたのに、コンビニで立ち読みした漫画が面白かっただけで気分が良くなってしまうこともある。

”心ころころ” と言うが、人間の心なんて簡単にコロコロと変わる。
同じ感情を一定に保っている人なんていない。というか、できない。

それは認知症の方でも同様である。そして認知症ともなると、"心ころころ" の振れ幅は非常に大きくなる。

介護職員と笑っていた利用者が、1分ほど目を放したところで泣き出してしまうこともある。しかし、泣き止んだら目の前にある小皿に入ったお菓子を食べ始めて、気が付けば小皿が空っぽになり居眠りを始める。

悲しいことがあれば「食事も喉を通らない」となることもあるが、そんな感情や状態はわずか数分で収まることがあるのも認知症の症状である。

このような認知症の症状としての感情の起伏の短さを応用すると「間を空ける」という対応が有効になる。

例えば、排泄介助としてトイレにお連れするも、眉間にしわを寄せて、便座に移動するにも立ち上がろうとすらしない認知症の高齢者がいる。

このようなときに「次の仕事もあるのに」など焦ってはいけない。
「何とかトイレで排泄しなければ」と思って説得する必要もない。

大切なことは「そうか、現時点ではこういう感情なんだな」と思うことであり、そして「数分もしないうちにこの感情は変わるかも」くらいに構えることである。

これは高齢者を馬鹿にしているわけではない。

介護とは、想定外の動きや感情になることを当たり前とすることが介護だと思う。介護従事者の思った通りに利用者(高齢者)に動いていただくことが介護ではない。

一方で、認知症における感情の起伏の短さを知っていれば感情的になることは少なくなる。あとは介護をする側が期待する動きに合致するタイミングを計るだけだ。

このような思考もプロフェッショナルとして必要だと思う。

「間を空ける」だけですべてが解決するわけではないが、少なくとも心の余裕が生まれるのではないだろうか? お試しあれ。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?