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果物

食べたことのない果物は、人の想像力を最もたくましくするもののひとつのように思う。
幼子は当たり前だが、果物のうち食べたことのないもののほうが多い。それをひとつずつ口にすることは世界の欠片を口にすることに等しいかもしれなくて、だから未知の果物は未知の世界だ。
私自身が小さい頃、食べてみたい、と願った記憶のある果物がある。
それは、アケビだ。
おそらく図鑑か絵本か何かで見たのだと思う。紫色の細長い実がぱっくりと割れて、その果皮の隙間から顔をのぞかせる、これまた細長く、キュッとまとまった果肉。
どんな味がするのだろう――と想像をめぐらせるとき、その果物はもはやファンタジー小説の世界の食べ物とほとんど変わりはない。
実際に一度、親にねだってアケビを買ってもらい、口にしたのだが、(恐縮ながら)特に感動した記憶はない。けれど、まあ世界とはそんなものだろうと思う。そのズレの経験は、きっと贅沢でさえあるはずだ。
さて大人になっても、旬が訪れた果物を口にするたび、ああ、こんな味だったなあと美味しさを再確認している自分がいる。つまり毎回、その味をちょっと忘れているわけで、その出会い直しもまた、ある程度世界が見知ったものになってしまった大人に許された、ささやかな贅沢なのだろう。

(文)

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先日、ふみさんの実家からは梨が、私の実家からは巨峰が届いた。
ふみさんと二人、「両家に生かされているね…」と言い合いながら、食後にいただく贅沢な時間だった。

最近では、野菜直売所でスイカの半玉、ブルーベリーを買った。
ブルーベリーは洗って冷凍庫に入れておくと、暑い日に少しつまんで食べるのに良い。ヨーグルトにも添えて食べた。
スイカは確か、8月の後半に買って食べた。それが今年最初の(そして最後の?)スイカだった。

その直売所には、農家の方が時々立っていることがある(近隣の直売所は、無人のほうが多い)。
いつもだと、「これとこれとこれをお願いします。」と「はい、〇〇円です。ありがとうございます。」のやりとりくらい。
でも、瑞々しいスイカの感想は、どうしても伝えたくなったので、後日、「あの、この前スイカを買ったんですけど、とても甘くて美味しかったです!」と、唐突ながら伝えた。
農家の方は、「それは良かったです!ありがとう」と、笑顔で答えてくださった。

美味しい果物を食べた時と同じくらいに、伝えられたことに嬉しさを感じた。

(カ)

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