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東京の魔力が綴られた同人誌『 #東京嫌い 』

地方産まれ地方育ち地方在住です。

東京に対しては好きも嫌いもなく、憧れも嫌悪もなく、勝ち負けも感じない。首都としての機能、便利さ、東京にまつわる数々の作品や愛憎の概念、それらを直接関わらない外側から眺めているような感覚。

だから今回、同人誌『東京嫌い』のタイトルを見ても正直そんなに気持ちが揺れることはなかったのです。私を揺らしたのは、好きでも嫌いでもない東京ではなく、同人誌『東京嫌い』を立ち上げた編集者3人と、寄せられた21作品でした。

同人誌『東京嫌い』マガジンは300円の買い切りで、すべての投稿作品を読むことができます。

編集者はbar bossaの林伸次さん、ライターで編集者のふみぐら社さん、農業と民泊のYukiさんの3名。

21人の書き手による東京作品が10月末より毎日順番に公開されていきました。現在すべて公開済みです。

圧倒的な「とうきょう」

今回のマガジンの中で私的ダントツの作品。

この作品を紹介したいためにこのnote書いてるといっても過言ではない、それくらい圧倒的な「とうきょう」でした。これです、これ。これが読めた。すごい。

生き物とも言い切れない得体の知れないものが周りの者を次々と飲み込んでいくなんて恐怖でしかないはずなのに、なぜか何気なく同居して、人が飲み込まれても事象として受け入れて、さらには飲み込まれなかった自分がまるで取り残されたかのような感情まで発生している。

このままじゃちょっとマズいかなって頃合いに、役所の人らしき人がヤバそうなものを「じゃ」って感じで撤去していく。面倒そうなものはごっそりなかったことになる。

とうきょうそのものを見せつけられて圧倒されました。

今回見つけたすごい人たち

マガジンを購入したかどうかの頃に流れてきた、まぶたゆりこさんの作品。
正直まだ読み始めたばかりの『東京嫌い』に乗れていなくて、線がすごく好みだなーってくらいに眺めていたのですが。

ヤバかった。なんてことだ。(語彙)
実際に公開された頃「なんてことだ」が流行語みたいになっていました。

過去の作品を見たらさらに、そのシュールな世界観に一気に捕らわれてしまいました。そうか、しっかりした編集者がいて執筆者を厳選して一冊の本を作るとこうなるのか、って今回の同人誌の意図を唐突に理解した作品でした。

やっぱりマンガってテキストに比べて伝わりやすさが格段に違います。

ハネサエさんの作品と同様に「そうだ、これが東京」って共鳴したのが真巳さんの作品。

私一人のものでなく、誰か一人のものでもなく、それを納得したうえで共有しつつ、でも一瞬の優しさに触れて甘えて、また会える日を羨望してしまう。
空や水や大地のように共有物でありながら、人工的で擬人化できてしまう概念の塊なのも、東京らしさを感じました。
会いたくても会えない、今の時期ならではのもどかしさも見事に表現されています。
あと絵がキレイ。色も素敵。女の子の笑顔がカワイイ。

おそらく実体験をもとにかかれたであろう作品も多く、創作も含めて一つ一つの作品を読み進めるたび、また一つの物語が「とうきょう」に飲み込まれていくのを順番に眺めているような気持ちでした。
しつこくてすみませんが、ハネサエさんの「とうきょうたろう」が全体を包み込んで、あるいは真横にいて、次の獲物を飲み込むタイミングをうかがっているような感覚がずっと抜けていません。

そんな中、肋骨がきしむような重みのあるのが。

人の愚かしさを諭すような立ち位置にいるつもりで、その言動がじわりじわりと自分を問い詰めてくる。初見より2度目、3度目、そして誰かが流したツイートを目にするたび、逃げ出したいのにもう一度覗いてしまいたくなる、これこそ東京の病みの魔力がありました。

全部は紹介しきれずすみません。
様々な感想が帯コレクションにまとめられているのでぜひ。


何より編集者あってこその同人誌

今回の同人誌『東京嫌い』はこの3人が知り合って意気投合した奇跡の産物と言える気がします。

おそらく編集として中心的な立ち位置にいる、ふみぐら社さん。

彼が関わっているなら間違いなく面白いと思いました。話題にもなるし売れるとも思いました。ヒネた気持ちではなく東京に対する関心の低さから、まぁ別に私が買わなくても大丈夫だろうし構わないだろうとも。

林伸次さんのnoteが、購入の決め手でした。

で、僕だったら「21人の中に3人くらい好きな書き手がいたら、300円か。試みも面白そうだし、課金してみようかな」って感じる「ギリギリの金額」なんです(ケチですいません…)。

私もケチというか課金に対しては相当シビアな方で、それでも買おうと決めたきっかけの一つがこの発言でした。
執筆者の中に読みたいと思う人が少なくとも3人いたのです。こう書くと、一人当たりの価値は100円かそれ以下かのような解釈もされかねないので誤解を避けるために弁解させてもらうと、私は生活費が大変キツキツで(無理してSUBARU乗ってるし(笑))その中から住居費や食費といった必要経費を除いた自由になるお金って本当に少なくて、たった100円でも用途を吟味して大事に使っているのです。
その私にこの同人誌を購入する背中を押してくれたのが、林さんのこのコメントでした。ちなみに唯一毎月ネット定額課金しているのも林さんのマガジンのみです。いつかお金持ちになったらサークルとか入ってみたい。

Yukiさんも同じく金額について相当考えていらっしゃいました。

かと言って、この海は殺伐としてはいない。しっかり読むと決めた人が身銭を切って同じ海に入っているから外海よりは暖かくて波も少ない。

たった300円にこれほど渋るからといって、価値あるものが無料で流されて欲しいわけではなく、そのモヤモヤっとした理由を的確に書いていただきました。

この同人誌『東京嫌い』をここまで労力をかけてまで世に出したかったという3人の熱意の波が私にも響いてきたのは間違いないです。

3人の編集者。読みたいと思う人が少なくとも3人いる。300円という金額。
3つ並んだ3で浮かんだのは、東京のシンボルでした。

東京タワー:333メートル

ついでに言ってしまうと、林さん(東京)、ふみぐら社さん(信州)、Yukiさん(三重)という3人が集結して出来上がった東京マガジン、三重出身で信州在住の私にとってかなり特別なものになりました。

やっぱり最後にもう一つだけ

読みたかった作家が誰なのかは書かないつもりだったけど、やっぱり。
この人が書くなら読みたいって思った、サトウカエデさん。

一生に一度でもこんなひとときを過ごしてしまったら、東京の魔力に捕らわれてしまうのも納得できてしまいます。

別にそれを望まない私には、東京の魔力を身をもって知る日は一生来なくても構わないのだけど。

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