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Defense Tech界のGAFAM、SHARPEを読み解く


はじめに

本記事では「SHARPE」と呼ばれるDefense Techにおいてユニコーン企業となっている6つのスタートアップについて紹介する。各社の事業内容の実態を細かく見ていきたい。

SHARPEが設立した背景

2022年の段階で、国防分野における企業において、過去10年間の資金調達において評価額が10億ドルをこえた会社が6社になった。これにより、今回取り上げる「SHARPE」への注目度は大きくなり、現在のDefense Tech領域の盛り上がりを牽引している。
米国のスタートアップ投資家が2020年代周辺を皮切りに軍事・防衛系のスタートアップへ投資する流れが生まれている。2022年より米国の大御所VCであるアンドリーセン&ホロウィッツは「アメリカン・ダイナミズム」という投資方針を打ち出し、米国の国益を増進するスタートアップを応援する姿勢を見せた。

Andreessen Howowitz社Facebook / Postより

アンドリーセン&ホロウィッツが紹介したAmerican Dynamism銘柄企業には、今回紹介するSHARPEの一角であるANDURILやPalantirなどが含まれている。SpaceXのような航空宇宙スタートアップをはじめ、宇宙産業における多くのユニコーン企業が登場したことを皮切りに、このような企業をベンチマークにする起業も相次いでいる。
このような盛り上がりに際し、コンサルティングファームAvascent and Harris WilliamsはDefense Techにおいてユニコーンを達成している企業をまとめて「SHARPE」と名付けた。彼らは特にPalantirの成功をベンチマークとして見て、防衛産業という巨大なレガシー産業にスタートアップが参入していく可能性を見ている。
自動車メーカーと比較した場合のDefense Tech市場において、新興のテックスタートアップがOEMを行っている製造会社と比較してまだまだ少ないパイしか取れていないという現実がある。このような拡張可能性の中でどのようにDefense Tech市場で新興のテックスタートアップが市場規模を広げていくのかが試されている。

SHARPE Focus: The Recent Emergence of Defense Unicornsより

一方で、自動車産業における新興企業の成長速度と比較して、これから紹介するSHARPE各社は評価額500万ドルに創業時から達成するスピードにおいて驚くべきスピード感が示されている。近年の安全保障上の危機感が増加したことにより、Defense Techへの資金的サポートは充実していく勢いが増しているのがわかる。

SHARPE各社の紹介

このようなトレンドの最中、ユニコーンとなった各社はどのような事業を展開しているのか。それぞれの特色を紹介する。

Shield AI

ドローンやロボットなどの防衛用途の自動システムとAIを開発。
代表的なプロダクト:Hivemind
人間のパイロットのように戦場を把握し、反応し、自律的に任務を実行できる、完全自律型のAIパイロット。このHivemindを活用して、F-16などの現代のジェット機から次世代の航空機(F-22やF-18等)までを進化させるプロジェクトを実行。実際に2018年から実戦投入されているVTOL(垂直離着陸)航空機としてV-BATはHivemindを導入している。また、Nova 2でも同様の導入がなされ、敵機との密接戦闘でバリューを発揮したとされる。

彼らの最新のシリーズFの資金調達では、米国イノベーティブ・テクノロジー・ファンド(USIT)とRiot Venturesなどが主導し、2億ドルを調達し、評価額は27億ドルに。Defense Tech領域における新たなユニコーン企業となった。


HawkEye 360

独自の衛星のコンステレーションを通じて地理空間分析を提供。
代表的なプロダクト:RFGeo、RFIQ、SEAker
独自の商用衛星コンステレーションを活用して、さまざまなRF(無線周波数)信号を識別し、処理し、地理情報と紐付けることで、地上、海上、空中における隠された活動や未知の活動を明らかにする地理空間情報ソリューションを開発している。彼らのプロダクトで分析を行うことにより、救助隊の人命救助、法執行機関による違法活動の阻止、通信会社のスペクトル利用などが実現されている。

2023年にシリーズD-1ラウンドで5800万ドルの資金を調達。このラウンドは、BlackRockが管理するファンドとアカウントが主導し、Manhattan Venture Partnersや既存の投資家などが追加資金を提供した。彼らはこの資金により、新しい宇宙システムの開発と、ハイバリューな防衛ミッションをサポートする分析の拡大を行なっていくとされている。


Anduril

軍事および国境警備用途の監視システムを開発。
代表的なプロダクト:Lattice Solutions
コマンド&コントロールおよびミッション自律性を持ったAI駆動のオープンオペレーティングシステムの開発。Latticeは、自律的な意味付けとコマンド&コントロール機能を開放的でモジュール式のハードウェアコンポーネントと接続し、層状のシステムファミリーアプローチを実現する。Latticeは、センサーフュージョン、コンピュータビジョン、エッジコンピューティング、機械学習および人工知能などの技術を使用して、オペレーターの周辺のすべての関心事項を検出、追跡、分類している。

Anduril Industriesは、2022年にシリーズEで14.8億ドルの資金を調達し、評価額を約84.8億ドルに引き上げた。この資金調達により、Andurilは研究開発を加速し、新しい先端の自律防衛プロダクトを市場に投入し、米国国防総省および米国の同盟国やパートナーとの現在の事業ラインを拡大することが予想される。このラウンドでは、Valor Equity Partnersがリードをとり、Founders Fund、Andreessen Horowitz、General Catalyst、Thomas Tullが設立したUS Innovative Technology Fund(USIT)などといった著名なVCや投資家が参画した。


Epirus

防衛およびセキュリティ用途の高出力マイクロ波技術を含む指向性エネルギーシステムを開発。
代表的なプロダクト:Leonidas
高出力マイクロ波(HPM)技術を利用したシステム。このシステムは、無人航空機(UAV)やその他の電子機器を無力化するために使用され、広範囲にわたる防衛・敵機を機能停止させる機構(ソフトキル)およびセキュリティアプリケーションに対応している。

Epirusは、2022年にシリーズCで2億ドルの資金を調達しました。この資金調達により、同社の総調達額は2億8700万ドルになり、評価額は13億5000万ドルに達した。資金調達はT. Rowe Price Associates, Inc.が主導し、8VCやその他の投資家グループも参加した。


Rebellion Defense

国家安全保障任務をサポートするAI駆動の防衛分析および運用システムを提供。
代表的なプロダクト:Iris/Nova
複雑な脅威環境において、リアルタイムで敵機や不審物の識別と追跡を行うIris、自動的な敵エミュレーションを通じて、敵対勢力からのサイバー攻撃を検出するNovaを開発している。

Rebellion Defenseは、2021年にシリーズBで1億5000万ドル以上を調達し、この資金調達により、同社の評価額は10億ドルを超えた。同ラウンドではShield CapitalとInsight Partnersが投資家として参加した 。


Palantir

情報の統合、可視化、分析のためのソフトウェアプラットフォームを提供。
代表的なプロダクト:Palantir Gotham/Palantir Foundry
政府機関や防衛部門向けに設計されたプラットフォームで、大規模なデータセットの統合、管理、分析を可能にし、情報の共有と協力を促進するPalantir Gothamと、企業や商業組織向けのプラットフォームで、データ駆動型の意思決定を支援し、データの統合、分析、および運用化を促進するPalantir Foundryの2種をメインに提供している。このパランティアのソフトウェアは、米国の情報機関による対テロ活動などの情報操作で使用されていると報じられている。

Palantir Technologiesは、2020年9月30日に直接上場(Direct Listing)によりニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。2024年4月現在の時価総額は約500億ドルになっており、上場以降も成長を続けている。

まとめ

本記事では、新興のDefense Tech市場におけるユニコーン企業、通称「SHARPE」について詳しく紹介した。SHARPEとは、Shield AI、HawkEye 360、Anduril、Epirus、Rebellion Defense、そしてPalantirの6つの企業を指している。
これらの企業は、防衛産業という伝統的な領域において、革新的なテクノロジーと新たな視点を持ち込み、市場の拡大と発展に寄与している。AI、自動システム、監視システム、高出力マイクロ波技術、防衛分析システム、情報統合ソフトウェアといった先端技術を駆使し、防衛産業の未来を切り開いている。
多額の資金調達を成功させ、巨大なレガシー産業に挑戦するこれらの企業の動きは、新たなビジネスモデルの可能性を示している。今後も彼らの活動から目が離せない。


参考文献
SHARPE Focus: The Recent Emergence of Defense Unicorns
a16zが掲げる「アメリカン・ダイナミズム」とは │ TECHBLITZが選ぶスタートアップ5選
Shield AI、航空機とドローン用AIパイロットの拡大のために27億ドルの評価額で2億ドルを調達
HawkEye 360 Receives $58 Million in Series D-1 Funding to Introduce a New Satellite Architecture and Accelerate Data Science Efforts
Anduril Raises $1.48 Billion in Series E Funding
Epirus Raises $200 Million in Series C Funding
Rebellion Defense raises $150 million at $1 billion valuation
Palantir Technologies Inc. (PLTR)

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