見出し画像

イスラエルにおけるSecurity / Defense Techのスタートアップ投資トレンド


イスラエルのSecurity/Defense Tech分野におけるスタートアップ投資のトレンドは、近年、顕著な発展を遂げている。特に、ソフトウェアベースの防衛システムへの関心が高まり、これがさらに加速されると見られている。AI、自律兵器、衛星技術、再利用可能ロケット、サイバーウォーフェアなどの技術が新しい軍事能力として注目されている。本稿では、このようなイスラエルの投資トレンドを広く紹介していく。

イスラエルのDefense Techにおける投資トレンド

イスラエルの防衛技術イノベーションは、政府との緊密な連携により、その成長と発展を遂げている。その一例として、Innofenseというプログラムが挙げられる。このプログラムは、デュアルユース(民間および軍事両用)のスタートアップを支援し、その製品やサービスの市場導入を早期化することを目的としている。このようなイニシアチブにより、防衛分野でのイノベーションは促進され、新たなビジネスチャンスが生まれている。

iHLS - InnofenseプログラムHPより

Innofenseプログラムは、2019年より創始され、スタートアップと政府の間の連携を円滑にするための役割を果たしている。このプログラムを通じて、スタートアップは政府のニーズをより深く理解することができ、そのニーズに対応した製品やサービスを開発することが可能になる。また、一部のスタートアップに対しては政府から直接購買注文が下されることもあり、これによりスタートアップのビジネスモデルがより確実なものとなるとともに、製品開発から市場導入までのプロセスが早期化することが期待される。
このように、イスラエルの防衛技術イノベーションは政府との緊密な連携によって推進されており、その結果新たなビジネスチャンスが創出され、防衛技術分野の発展が促進されている。これらの取り組みは、イスラエルが防衛技術分野でのリーダーシップを維持し強化する上で重要な役割を果たしている。
Pitchbookによれば、ベンチャーキャピタルの投資も積極的で、多くのVCが防衛技術セクターに大きな資金を投じている。2016年から2022年にかけて、防衛技術分野には約1353億ドルが投資され、約4700件の取引が行われた。
また、国際的な協力も見られ、アメリカとの間で2021年に設立されたU.S.-Israel Operations-Technology Working Groupなどが、AIやバイオ技術など、様々な技術分野での共同研究を進めている。2022年には、アメリカとイスラエル両国間での重要かつ新興技術に関するパートナーシップを確立するために、ジョー・バイデン大統領とヤイール・ラピド首相によって対話プログラムが実施された。気候変動、パンデミック対策、人工知能、信頼性のある技術エコシステムの開発など、多岐にわたる分野での協力が強化される方向性が目指された。
その他にも、諸外国によるイスラエルの技術力への投資は多く存在する。近年でもアブラハム合意を経て、UAEとイスラエル間の連携が強化され、AI、ブロックチェーン、サイバーセキュリティといった技術セクターで特にコラボレーションの進展が見られる。
こうした動きは、イスラエルが高度技術国家としての地位を維持し、さらに発展させるための戦略的な取り組みとも言える。この地域の政治的な不安定さや高い企業評価を乗り越え、技術革新の波を捉えることが今後のキーポイントになりうる。

イスラエルの技術シーズ

イスラエルの防衛技術の投資トレンドを深く掘り下げると、いくつかの注目すべき動向が浮かび上がる。特に、デュアルユース技術(民間および軍事両用)のスタートアップへの支援は、イスラエル国防省が重点を置く領域である。これらのスタートアップは、技術の商業化と軍事応用の両方を目指しており、Innofenseのようなイニシアチブによって支援を受けている。これにより、政府調達プロセスの長期化という障壁を乗り越え、より迅速に市場への導入が可能になっている。
また、防衛技術の分野で活動するスタートアップは、非常に高い防衛IQ(Defense IQ)を要求されている。これは、創業者が軍事や防衛関連の背景を持つことが多いためで、特に政府との契約において有利に働く。高い防衛IQを持つことは、スタートアップが政府の調達オフィサーや関連機関と有効にコミュニケーションを取るために不可欠である。そして、これらのスタートアップは、防衛予算が非常に大きいため、少しの市場シェアを確保するだけでも大きな収益機会を意味する。


コンバットAIを開発するAxon Vision

さらに、最新の技術動向として、AIの進化が挙げられる。AIは軍事作戦における意思決定支援や、自律兵器システムの運用に不可欠な技術となっている。例えば、Axon VisionはAIを用いて戦場での状況認識を強化する技術を開発しており、これにより戦術チームはリアルタイムで脅威を認識し、対応することが可能である。

AI活用したロボティクス開発をするxtend


AI活用したロボティクス開発をするxtend

イスラエルの防衛技術スタートアップは、国際的な市場にも大きな影響を与えている。特に、IoT(Internet of Things)技術の導入が著しく、センサーやウェアラブルデバイス、エッジコンピューティングを利用して軍事訓練や戦闘準備に革命をもたらしている。これらの技術は、戦場での即時のデータ収集と分析を可能にし、戦術的な意思決定を迅速かつ効率的に行うためのサポートを提供している。代表的なイスラエルのデバイス開発系スタートアップで、ドローン技術を用いたソリューションを提供しているXtendは、主に遠隔操作可能な無人航空システム(UAS)を開発しており、これらのシステムは、軍事および民間市場の両方で応用されている。
また、サイバースペースは新たな戦場としての位置づけが高まっており、サイバー攻撃および防衛ソリューションの開発に焦点を当てたスタートアップが増加している。これにより、国家や企業のデジタルインフラを保護するための新しい技術が次々と生み出されている。これは、特に国際的な紛争やテロに対する防衛策として非常に重要な要素となっている。イスラエル出身のサイバーセキュリティ系スタートアップは多分に存在している。エンドポイント保護・検出・対応ソリューション(EDR)を提供するCybereasonや、ファイアウォールとVPN製品の老舗企業であるCheck Point Software Technologiesなど、多くの会社はイスラエル外でも事業を展開しつつ、技術アセットをイスラエル国内に保有している。

まとめ

イスラエルのSecurity/Defense Tech分野におけるスタートアップ投資のトレンドは、近年、顕著な発展を遂げている。政府との緊密な連携が防衛技術イノベーションの推進力となり、新たなビジネスチャンスが生まれている。特にデュアルユース(民間および軍事両用)のスタートアップへの支援が重視されており、政府調達プロセスの長期化という障壁を乗り越え、市場への導入が迅速化されている。また、AIの進化やIoT技術の導入が軍事作戦における意思決定支援や自律兵器システムの運用に寄与している。これらの技術革新は、イスラエルが世界の防衛技術市場で引き続きリーダーとしての地位を確固たるものにするための基盤を形成している。
こうした技術の進化は、軍事および防衛業界におけるイノベーションの重要な推進力となっており、イスラエルの防衛技術のスタートアップエコシステムは、今後も引き続き注目される分野であることが期待される。これらの技術革新は、イスラエルが世界の防衛技術市場で引き続きリーダーとしての地位を確固たるものにするための基盤を形成している。このような背景から、投資家やVCはイスラエルの防衛技術スタートアップに大きな期待を寄せており、その投資活動はさらに活発化していくだろう。


参考文献
These 10 VCs lead the way in defense, aerospace tech
How Israel’s military is prioritizing dual-use start-ups to accelerate defense tech
FACT SHEET: U.S.-Israel Strategic High-Level Dialogue on Technology
INNOFENSE iHLS
Axon Vision
XTEND
How tech is cementing the UAE-Israel alliance

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?