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いつかオーロラを見よう

私は時折やけに現実的になる。
例えばまさに今日、時差が8時間もある異国の地で頑張っている彼と電話したとき。彼のビジネスがそこまでうまくいっていないと聞いたとき。

ベンチャーの5年生存率は15%と言われている。
本当はもっと厳しいのかもしれない。
例のごとく彼も苦戦していて、どうしてなのか、これから何をするのかを淡々と質問攻めする私。
うまくいかなかったらどうするの?あなた、会社勤めは好きじゃないみたいだけど、いつか本当にどうしようもなくなったらちゃんと働いてくれる?

私はこういうとき、上手くいくことより上手くいかなかった場合を考えてしまう。常に冷静に、不安に陥ることなく進み続ける彼と違って。
私がこれから数年学生となり、無収入なのに学費と生活費でお金がなくなることがみえているからこそ、彼には成功してほしい。
毎日頑張っている彼の頑張りが報われてほしい。
だからこそ、私は無邪気に「頑張って」と言えない。
どんどん悲観的になり顔がひきつる私を見て、彼もどんどん暗くなる。

「ともこが悲しんでるところを見るとつらいし、こういうときは励ましてもらいたい」
「あなたさ、私がどんな人か知ってるでしょ?今までこういうとき、私が明るく無邪気に『がんばってね!』って言ったことある?どうするのか考えないと」

追い討ちをかけるように、私は今読んでいる韓国の小説から、自分の哲学に固執した結果、千載一遇のチャンスを逃して恋人もペットも失った話までした。あなたの話を聞いていて思い出したわ、と。

私は将来の不安を彼に押し付けている。彼に諦めてほしいわけじゃない。
むしろ、信念を持って人一倍努力する彼が大好きで尊敬している。
私が不安なときに、いつも助けてくれるのは彼なのに、彼が不安なときに私は現実をまじまじと見せつけて、悲しくさせる。

微妙な雰囲気で終わったビデオ電話の後、私は再び読みかけの短編小説を読み進めた。本の最後の話にはフィンランドが出てきて、そこでフィンランド人の老人は韓国人の女性に「いつか冬の寒い季節にまたおいで。きれいなオーロラが見えるから」と告げる。

私は頭の中でオーロラを想像し、それを彼と一緒に見たいと思った。
そして、彼とやりたいことリストを作らねば。と思った。
絶景の自然を見たとき、綺麗な街並みを見たとき、真っ先に思い浮かべるのは彼だった。


これが愛なんだ。大切な人なんだ。
彼が求めていることばを言えない罪悪感と後悔とともに。



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