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第66回 「岸田國士戯曲賞」候補作すべて紹介する記事

 第66回岸田國士戯曲賞が候補作を発表しました。演劇界最高の名誉ですがほぼ誰も知らない賞が今回脚光を浴びているので候補作を紹介します。

 それぞれ、名前、所属劇団、候補数、作品名、(公演の主宰が所属劇団ではない場合は主催団体の名前)、あらすじ、駄文。の順番です。


小沢道成(EPOCH MAN) 初候補
『オーレリアンの兄妹』
会場 : 下北沢駅前劇場
 絆太と晃子の兄妹はある日、“おかしな”家に迷い込む。怯えつつも兄妹はその家で生活することにしたが・・・。

 鴻上尚史が主宰する虚構の劇団において看板俳優として活躍。2014年には佐藤佐吉賞の最優秀助演男優賞も獲得した実力派俳優。だが主宰しているEPOCH MANの演出家脚本家としてもコンスタントに作品を発表。そして掴んだ初ノミネート。俳優だけでなく劇作家としての才能もあるなんてと、悔しがる演劇人一杯?

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笠木泉(スヌーヌー)初候補
『モスクワの海』
会場 : ニュー風知空知
 座り込んだままの老女、傍らには中年男性。通りがかっの若い女性は、介助を申し入れるが断られ。ほっとけないところに老女は独り言のようにあれこれモノ語り始めて。(あらすじ引用元

 俳優として活躍して、ということなら笠木泉も負けていない。数々の人気劇団に参加。2007年には読売演劇大賞女優賞の上半期最終選考(ノミネートまであと1歩)になる。その一方でアデューの作演出家として活動し、新たに始めたスヌーヌーでついに初ノミネート。実力派女優が劇作家としての才能もあるよと岸田賞に殴り込み。

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加藤シゲアキ 初候補
『染、色』(東京グローブ座)
会場: 東京グローブ座/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
 深馬は周囲から高い評価を受けている美大生。しかし本人はあまり上手く行っておらず、街の壁にグラフィティアートを書いている。しかし、自分の書いたグラフィティアートが変化していることに気づく。

 加藤シゲアキの功績といえば素晴らしいのに知名度の低い吉川英治文学新人賞を受賞することによって世間に広めたこと。そして今回は知名度皆無の岸田賞を候補になっただけで世間に知らしめた。これで受賞しちゃったらどうなるの?世間はお神輿に乗せてアイドルの彼を崇め奉るけど、彼が文学賞で本当に欲しいのは作家としての評価だけかも。

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瀬戸山美咲(ミナモザ) 3年ぶり4回目
『彼女を笑う人がいても』(世田谷パブリックシアター)
会場 : 世田谷パブリックシアター
 新聞記者の伊知哉は東日本大震災の取材を続けてきたが、配置転換により継続できなくなった。そんな時、亡くなった祖父・吾郎も新聞記者だったと知る。1960年、安保闘争の最中に女子学生が命を落とす。彼女の死の真相を追う吾郎。2021年、伊知哉は吾郎の道筋を辿る。
 一貫して社会問題を描いている劇作家は今回も骨太な作品で4回目の候補。読売演劇大賞優秀賞を(という名の候補)4回、芸術選奨文部科学大臣賞新人賞を受賞している売れっ子。そろそろ候補の常連を返上し受賞を手にしたい。社会性と文学性が融合した作品は岸田賞好み、今回は『染、色』の演出も務めTHE★瀬戸山イヤー。

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額田大志(ヌトミック)初候補
『ぼんやりブルース』
会場 : こまばアゴラ劇場
 事実とフィクションからなる言葉、ときに生演奏を織り交ぜながら、時代と場所を超えたさまざまな日常が描かれる。
 
 演劇ファンから熱い注目を浴びている演劇人が初登場。というのはただの一面。もう一つの側面はフジロックフェスティバルにも出演したロックバンド東京塩麴のリーダーが初登場。岸田もフジロックも多くの若者(まぁ岸田はフジの1万分の1くらいだろうけど)が目指す夢の世界。そこを制覇するなんて。パフォーマンス色の強さがどう評価されるか。

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蓮見翔(ダウ90000)初候補
『旅館じゃないんだからさ』
 会場 : 渋谷ユーロライブ
お話。サブスクの時代、閑古鳥のレンタルビデオショップ。その日はあろうことか、関係性を更新したい/したくない人達でてんやわんや。(あらすじ引用元
 
 アイドルファンが喜べば、こっちはお笑いファンが大喜びだ。M1グランプリでは5人漫才で準々決勝まで進み業界人からも注目を浴びるコントユニットから主宰が初登場。コントユニットが岸田の候補になれるわけない。劇団かもめんたるが開けた穴からついに乗り込んでやったぜ。はりねずみのパジャマ時代から追いかけてたファンは号泣必死!

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ピンク地底人3号(ももちの世界)初候補
『華指1832』
会場 : in→dependent theatre 2nd
 京都でダイナーを経営する桐野京子は、コーダ(聴覚障碍者を親に持つ聴者)である息子ひかると暮らしていた。 ある日、ひかるは恋人の優子を連れてくる。意気投合する京子と優子であったが、、優子に隠された過去が明らかになる。 COVID-19が猛威を振るう中、悲劇が起こる。
 
 その珍妙な名前で注目を浴び(所属していたピンク地底人は劇団員全員が1号2号と番号を名乗っていた)、名前だけでない独自の世界観で評価を受ける。新ユニット、ももちの世界を結成してからはより勢いを増していきせんだい短編戯曲賞、日本劇作家協会新人戯曲賞を受賞。大半が手話という実験作で遂に初候補に昇りつめた。

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福名理穂(ぱぷりか)初候補
『柔らかく搖れる』
会場 : こまばアゴラ劇場
 いつだって家の近くでは川の音がしていた朝は爽やかに、夜は誘い込むような音が響き続ける孤独と、後悔と、温もりと、広島に住む家族の物語
 
 一貫して、静かで切実な人間関係を描き続けてきた。決して派手ではないが人間をじっくり描き続けている内に様々な人がその中にある魂に気づき始める。MITAKA "Next" Selectionに選出され注目の演劇人になった後も青年団演出部に入団し、なおその世界を極めてきた。岸田賞で無類の強さを誇る青年団演出部でパワーアップした物語とくと見よ。

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山本卓卓(範宙遊泳) 4年ぶり3回目
『バナナの花は食べられる』
会場 : 森下スタジオCスタジオ
 夏。33歳、独身、彼女なし、アル中、元詐欺師前科一犯の“穴蔵の腐ったバナナ”は、マッチングアプリで友達を募った。サクラのバイトである“男”は、釣りだと知りながら課金したバナナに興味を持ち、会うことにする。「人を救いたいんだ・・・」と言うバナナと男は、僕/俺「ら」になり探偵の真似事をしながら諸悪の根源を探しはじめる。

 映像と融合した独自の演劇で新時代の旗手と言われた彼も気づけば候補は3回目。今回はオンライン演劇として発表したシリーズをベースに作った新作。結成15年目の中堅劇団として独自の地位を築いているが、ここらで安定したキャリアに刺激を与える何かが欲しい。おや、ちょうどいいタイミングで候補になったな。これはもう上げるしかないね。

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というメンバー。今回は
劇作家 VS 俳優 VS アイドル VS ロックミュージシャン VS お笑い芸人
という異種格闘技戦みたいなラインナップ。でも、演劇ってルール無用の残虐ファイトが本質なんですよ。なのでこのラインナップこそ演劇なのですよ。
90年代ゼロ年代の候補が当時の小劇場シーンを代表していたかというと、多様性のないつまらない候補(つまらない候補作ではない)ばっかり。
それがどうだ、こんなに面白いラインナップやるじゃないか。
なお、これはどんな選考会になるか3パターンで予想。

なお、戯曲は無料公開される(と思うんだけどどうですかね?)のでその時にレビュー企画をします。なお、前回はこれです。

今年も楽しそうですねっ

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