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すごい生命力『すごい始まり』 の感想

(会場:イズモギャラリー)

安藤安按(ex.中野坂上デーモンズ)・長井健一(宝宝)・波世側まるのクセモノ俳優3人組による演劇ユニット。

二人の演劇人による書下ろし新作2本のカップリング公演。
コント集『デビュー』
作・演出/滑川 喬樹(エトエ)
「パラレルワールド」
パラレルワールドから来た女は救世主になりうる少年と接触する。女の説明で分からない部分を女は説明するが、分からない範囲があり得ない部分まで広がってきて。
「いい曲」
ドライブデートする二人だが、エンヤが流れる。エンヤの感動エピソードを思い出して泣く彼女だが、そんなエピソードはなくて・・・
「ジェイソン」
謎の殺人鬼に追われた男女。静かに隠れてやり過ごそうとするが、男はそんな状況でも女の誕生日を祝いたくて

おバカなワンシチュエーションに安藤安按をツッコミ役で、長井、波世側の強烈なボケで引っ張っていく。特に「いい曲」長井、波世側の顔芸的演技で一発ネタだけでもとんでもない破壊力、馬鹿馬鹿しさを突き詰めてそして改めてエンヤいい曲歌うなぁと感じさせる。顔芸で良さを増幅させる。
作・演の滑川率いるエトエは最近注目度上昇中のコントユニットで、今回初めて見たのだがいわゆる天丼を多用する作風なんですね。(すごい生命力用にあえてその3本を書いた可能性があるので本公演見てみないとわかんないけど)。
天丼は一発目が外れるときついものがあるが、ゴリゴリのパワープレイで一発目から確実にあてにきている。

短編演劇『上海蟹さっちゃん』
作・演出/鳥皮 ささみ(なかないで、毒きのこちゃん)
友達3人での鍋パーティー。さっちゃんは上海蟹を持ってきて、ポーちんは喜ぶがみみ恵は絶句する。何故なら、あるカラオケの夜にさっちゃんの彼氏が上海蟹になるという告白を受けていたから。物語は大学入学当時までに遡り、出会いと上海蟹になるまでが語られる。

いい人だがやたらテンションが高いおしゃべりのポーちん(長井)、倫理観の無いみみ恵(波世側)というここでもこの二人が強烈キャラで引っ張っていく。でも、どこか悲しみがうっすらあって、その濃度が高くなっていく。
上海蟹として登場するさっちゃんの彼氏は人間としては舞台に登場しない。みみ恵の異常態度にキレたポーちんがきっかけとなって出会った三人。ポーちんの友達だった彼とさっちゃんは、ロマンチックではない出会いをするがそれが運命の出会いだった。友達二人のおぜん立てで結ばれゆく二人。その外縁だけ描かれ具体的な彼氏は描かれないものの、それだけでも鮮やかに彼氏のシルエットが浮かび上がっていくのは上手い。
ようやく好きな人と結ばれたのに、上海蟹になるという彼の珍妙な発言で不安になる。書き方によってはいくらでもへんてこにできたし実際ヘンテコではあるのだが、上海蟹が死のメタファーとしての機能を果たしており、漠然とした不安が作品を支配していく。
みみ恵、さっちゃんと視点人物が変わる中で最後にポーちんの視点で二人の恋愛模様が語られていく。明るくて優しい彼に秘められた悲しい思い。それ自体は割とよくある展開なのだが、最後のパートとして用意されることによってこのも語りの悲しみをより分かりやすく増幅させる。
個人的には珍妙な作品はとことん観客を突き放して欲しいので、さっちゃんパートで完結している作品だからポーちんパートはあまり必要ではないと思っている。のだが、ここは作品を分かりやすくするための鳥川なりのサービス精神なのだろうか。
そしてラスト、暗転の後に一瞬だけ描かれる食事。グロテスクでユーモラスでありながらあっけらかんとした悲しみがある。

コントと短編演劇作風が違うようで、ナンセンスが二つのパートを繋ぎ止めて一つの公演として見事なまとまり。 2つとも。3人の役割が共通しているのもより一体感を生み出す。
すごい生命力、この個性を活かす作・演は誰をチョイスするか楽しみ

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