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「書くことが私をあそこに連れていく」ために

 今日は少し趣向を変えて、就職活動に悩む学生さんのお手伝いについて書いてみます。まとまった文章として書いているものの一部分です。需要あるかな?と思いつつ。

 文章の中に「アドリブ九州」という名称が出てきます。東京で活動中の「アドリブ」というグループがあります。いま43期くらいでしょうか。東京のアドリブで学んだ2期の内藤学さん(現在の水戸ヤクルトの社長)と7期の私が九州の福岡と熊本で始めたのがアドリブ九州。毎日新聞社の山崎宗次師の山崎塾の教えを引き継ぎつつ、アドリブ創始者の藤島淳先輩の薫陶のもと、眞藤が習った共同通信の浜田寛氏の作文法を取り入れ、九州ではさらにdepth interviewの手法も加えて学生さんと会い見(まみ)えます。では写真の下のチャプターから。

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 いよいよ就職を意識するようになって、学生さんがいろんなツテを頼って僕に連絡をくれます。そうしてその年度のアドリブ九州が始まります。

 初回の会合では、皆さんの意気込みなどを伺いつつ、就職活動がこれまでの人生の中で経験したことがないくらいの孤独な「戦い」であることを話します。
 アドリブ九州は「作文」を通して自分の考えをまとめていく時間であること、やり方はシンプルでノウハウを知ったら即できるつもりになれるけれど、体得するまで繰り返し身体と心を動かすことが大事なことを説明します。

 身体を動かすとは、まず手で原稿用紙に文字を書くこと。自分の書きたいことを好きなように書くのではなく、多くのスポーツのように一定のルールのもとに書いてみること。原稿用紙の使い方も含めて説明します。もうひとつ、身体を動かすとは、取材をすること。自分の心象を産んだ体験を取材をするように見つめ直し、描写をする。あるいはルポなどを書くために知らない人に話を聞いて、現象を見て匂って触って、それを言葉に落としていくこと。

 心を動かすとは、見聞きしたものから自分は何を感じたのか。子どもの頃に同じようなことを体験した時といまと違うのか同じなのか。違ったり同じだったりした時に自分はどう感じたのか、何かしなければと思ったか、そして行動したか。その結果どういう心持ちになったのか。

 言葉で書くとこんなことになりますが、具体的には皆さんそれぞれが「書く」という行動に取りかかってから出会う素晴らしい体験であり、産みの苦しみでもあります。

 そんな話をしながら、初回の最後に二つの課題を出します。

 一つは次週持ってくる作文。
 たいていはとても抽象的なタイトルです。
 「海」「交差点」「鉛筆」「米」「朝」「青」…。
 作文というもの自体、小学校の頃に書いたっきりで中学高校大学とご縁がなかった皆さんです。
 「何書けばいいんですか?」
 そんな質問が来ます。まずは自分で考えて書いてみてというのが僕の回答です。
 意地悪しているわけではありません。
 悩むことが必要なのです。答えを自分で見出すという体験が大事なのです。
 そのお手伝いをするのが僕で、僕はあくまで「教える」立場ではありません。皆さんが気づいていくきっかけを作り続ける。
 どうしても気づくことが厳しい場合は、近いところまで手を取るようにして案内することもあります。でも、最終的には自分の足で小さい一歩であったとしても進むという経験をする。そうすると次の一歩は足の出し方がわかります。

 そうして自立して歩んでいけるようにする。
 それが僕の役割です。

 もう一つの宿題。
 それは「日記を書く」こと。

 日記を持ってこいとか、そんな管理型小学校のようなことはしません。けれど1ヶ月たったくらいの頃「どういうこと書いた?」と尋ねることがあります。
 というのはアドリブ九州で書いてもらう日記はテーマを定めているからです。

 それは「今日一番楽しかったこと」「いちばん美しかったもの」を描写するということ。
 …が楽しかった、という内容は×です。
 「久しぶりに会った中学生の同級生とこのような話で盛り上がった」「笑顔のシワが昔のままだった」など、後から読んでそのときのことが脳裏に再現できるような内容を書くのです。
 文章量は「レポート用紙3行くらいかそれより多いくらい」です。
 みっちり書くことを課すと長続きしません。
 それより毎日「なんか心が浮き立つこと」を書き続けることが大事です。
 それが溜まっていくことが大事なのです。

 一ヶ月、二ヶ月書きためていくとどうなるか。
 「自分はどのようなことを見ると喜ぶのか」
 「自分は何を見ると美しいと思うのか」
 の、客観的な記述が三十本、六十本溜まります。

 そう。自己PRのエビデンスが知らず知らずのうちにできるのです。

 それと同時に、二ヶ月経ったあなたは、どんなに落ち込んだ時でも「今日、書かなきゃ」と心が前向きになるネタを探すハズです。
 嬉しかったことがなかった時には美しいと思えるものを。
 心が浮き立ってなくても、ポジティブな何かを探すはずです。
 これが、就職活動の孤独な時間を乗り越える一つの力の源になっていきます。


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