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スローシャッター

蔦屋書店六本松では旅のコーナーに置いてあった。
ジュンク堂福岡天神店でも、旅のコーナーに置いてあった。

ここの書店は「旅」について異常に充実している。僕らを駆り立てようとしている。
田所さんが伊集院静さんと青山美智子さん、江國香織さんと肩を並べている。
この書店は1階の一等地に旅コーナーを作っている。旅推し活中とみた。



この本を読み進めて今まで行ったことがある国が出て来たりすると、
その度に自分がその国で撮った写真を見たりして、
またその場所へ行きたい気持ちが掻き立てられる。
そこで出会った人に会いたくなる。

田所さんはその国のグダニスクに行った。僕が行ったのは内陸部のクラクフ。
一人で夜の街を歩いたが、パブに入ることはなかった。

コロナ禍で海外出張がなくなったりしたこともあって、2019年から今まで海外には行っていない。その間に早期退職で会社辞めてしまったし海外出張はもうないのかもしれない。
仕事で緊張した時も、どんなところでも快適に「大」ができることは大事だから、これまでの海外出張で大変重宝した「ハンディタイプのウォシュレット」が持ち腐れになってしまう気がしてきた。


多くの人が言っている。
この本は旅の本でもあるけれど、第一級の仕事の本だ。

仕事とプライベートを人は分けるけれど、仕事には人柄が出る。
本性が出る。
仕事は人そのものだ。


本性が見透かされることを恐れてか、
しごとをビジネス、仕事の意味をミッションと言い換える人がいる。
そんな人にこそ読んで欲しい。

読んで欲しいけれども、ビジネスやミッションの人は、
行間に書いてあることまで、今は読みとれないないかもしれない。

でも。
この書に流れる心地よさは味わえるだろう。


クラクフのユダヤ人街で食べたユダヤ料理。
おいしい。
そして、色々と知って食べると、その美味しさが複雑に心に絡んでより深い滋味となる。


そうして、そのビジネスやミッションで何かにつまづいたとき、
この書を開いてみるといい。
人生の舳先を向けるべき何かが見えてくるはずだ。

しごととは他の人や組織、そして社会に何かを働きかけて、何かをカタチにすること。

著者の田所敦嗣さんは、私たちの口に美味しい魚をもたらしてくれる仕事をしている。
初めていく場所も多い。その仕事を進めていく間に、その中の人びとと心が通い始める。

たとえばタイのフェイさん。
ビジネス的にいえば深く関わらずにミッションを与えて管理するだけでも良かった。
そういう立場に憧れる人も最近は多いのではないだろうか。
自分はホワイトな立場でマネジメントする、ような。

しかし。
人として生まれてきて、その人の価値を決めるのは業績ばかりではない。
人の価値として最も大切なこと。それは、どう愛し愛されたかだ。

情愛だけではない。自分の存在の価値をかけて愛する愛されるということ。
よそ者の田所さんは世界の発注先の企業に行って、事業をマネジメントする。
でも。それをやる間に相対した現場の人に大事な魂を残してくる。
携わる人の心に希望や嬉しさを灯す。
そこに人としてのしごとがある。


たとえばニャチャン(とにかくこの語感が好き)のロアンさん。
子どもたちの写真を見せられたところから田所さんのロアンさんへの印象が変わっていく。

マネジメントする立場で行っているのに、有能なロアンさんに物怖じする田所さん。
子ども達の写真を見せてもらい、会話を交わすようになって。
田所さんはロアンさんが仕事をする姿を見るのが楽しみな自分を見出していく。
詳しいシチュエーションは読んで追体験して欲しいので書かないけど。
言えるとすれば、そこから見えるのは、ビジネスやミッションだからという上下の統治的思想ではなく、仲間として力を心を寄せ合って何かを達成していこうという姿だ。
そうして人としてのしごとが現れてくる。


この本は読み終えてもブックオフなどに送らずにいつでも読めるように手元に置いておくべき本。
ひろのぶと株式会社刊の、この『スローシャッター』だけではなく、『全部を賭けない恋がはじまれば』も、ダイヤモンド社の『読みたいことを、書けばいい。』『会って、話すこと。』も。
田中泰延さんが関わった本は全て、読み手の人生のそのときどきで行間から得るものが変わる本ばかりだ。
高くて旨い質のいいスルメみたいな本たちだ。

もしかすると「上下思想ではなく、仲間として力を心を寄せ合って何かを達成する」というのは田所さんだけではなくて、泰延さんをはじめとして関わる皆さんに通底している信念なのかもしれない。
それは直接関わった人々だけに向けられているのではなく、志を同じくする皆んなに向けられていると思う。



志を同じくする人々と、社会の一隅から変えていく。
そういう熱い気持ちも伝わってくる。
さあ、皆さんご一緒に。
そんな言葉が聞こえてくる気がする。

とにかく、
この本は買って読んだら、ずっと持っとけ、だ。

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