見出し画像

ひきこもり搾取➁支援団体とマスコミから利用されないために

当事者から支援者への転身

①からの続き/

そういうわけで、当事者にとって参考になるような体験談や回復の過程にまつわる話は、なかなか表立って語られることがありません。表に出てくるのは、ステレオタイプに加工されたものか、「ひきこもり界隈」の ”常連さんたち” が語るもののいずれかです。

ステレオタイプの方は、実態を反映しきれていないという問題があります。
典型的な「ひきこもり」の主な特徴を以下にあげてみると……

・外出できない
・仕事をしたくてもできない
・人との関わりを求めているができない。
・その他さまざまな活動に積極的に取り組めない。
 →いわゆる「一歩が踏み出せない」状態。
・「居場所」がない。思いを「吐き出す」場がない。

これらの要件をすべて満たす人は案外少ないですね。事情は人それぞれだからです。ところが、NHKをはじめとするマスメディアで報じられる際には、実態をねじ曲げ、型に嵌められてしまう。この問題は前回に指摘した通りです。

そして、「ひきこもり界隈」の人たちが語る体験談も、それはそれで問題がある。なぜなら、彼らがひきこもりから回復した先にたどり着いた「居場所」というのが、やはりひきこもりの人たちの支援をおこなう団体だったり、活動だったりするからです。

ひきこもりの居場所に通って「回復」した人が、自ら居場所を主催するようになったり、「ピアサポート」と称して支援する側にまわったりすることはよくあります。はたして彼らは、ひきこもりから脱したと言えるのでしょうか? 立場を変えて同じ場所に居続けているだけ、と言えないでしょうか?

最大手の支援団体では支援者の育成をしているらしい。5000円払って研修受けるとお墨付きがもらえる。修了生はピアサポーターとしてタダ働きボランティアするという……実に巧妙なすばらしい組織運営システムですね~。KHJ全国ひきこもり家族会連合会のウェブサイトより

端的に言えばこういったあり方は、外の世界に出ていくことを諦めて内輪の閉じた世界でやっていく、ということを意味するのだと思います。それはそれでいいのです。当人が自覚しているのであれば。そうでしか生きられない人がいるのは事実ですから。

ただ、こういったあり方が他のひきこもり当事者に及ぼす影響と、社会的な影響が気になるのです。

支援者として関わっている人には、「ひきこもり」経験者が多く含まれています。大きな支援団体の主催者や界隈のオピニオンリーダーのような有名人は、例外なく元ひきこもりの人たちです。彼らが脱ひきこもりのロールモデルとして機能しているかというと、はなはだ疑問なんですよね。

確かに、彼らは過去の孤立状態を抜け出してはいるのですが、脱け出した先というのが、ひきこもりの人たちが集う「界隈」なのです。そこに適応し、仲間を得て、やがて「居場所」「当事者会」といった集まりを開いて人を集める側に回ります。うまくいくとその活動を通じて発言力を持ち、世間に向けて情報発信していくことになりますが、それでもやはり「ひきこもり」の看板を掲げていることに変わりはありません。

一般社団法人ひきこもりUX会議のメンバーたち。 ここの女子会いちど行ったことあるけど、主催者側のリア充ぶりと参加者のどんより感が対照的でした。ひきこもりUX会議のウェブサイトより

ひきこもり状態に悩んでいる人で、「ひきこもり」支援活動を積極的にやっていく野心をもつ人は少ないでしょう。普通の平凡な生活がしたい人が大半だと思います。でも、彼らの望む普通の生活というのは、「ひきこもり界隈」の外にあるのです。だから界隈の人たちではなく、そことは無関係な人たちこそ、ロールモデルになるはずなんです。

だとしたら、界隈にいつまでもいたって仕方がない。「居場所」に通い続けても、そこには「ひきこもり」の人か「元ひきこもり」の人しかいないですからね。一時的に “心を癒す” 場としては有効なのでしょうが、ずっと通ってもどうにもなりません。ひとりで孤独にひきこもるよりはましかもしれないけど、みんなでひきこもっているだけでは先が見えない。
そうやって「居場所」に人が集まることでいちばん得をするのは、いったい誰なんだろう?そのへんをよく考えた方がいいですね。搾取されたくなければ。(誰に?)

支援団体に属さずに、単独で当事者活動をしている人たちもいます。彼らは「ひきこもり当事者」として長年やってきて、業界の顔として執筆や講演を勢力的にこなしています。「ひきこもり」らしくない、と文句を言うのはナンセンスで、なぜなら彼らの目的は「脱ひきこもり」ではないからです。
むしろ、「ひきこもり」ではなくなると困ってしまうでしょうね。「ひきこもり」のレッテルを逆手にとって、それを看板にして活動というか商売しているからです。ひきこもり芸とでもいいましょうか。

事実、「ひきこもり名人」と名乗っておられる方もいますから、ひきこもり芸も熟練の域に達しています。

ひきこもり名人、勝山実さんのブログ。味わい深い文章と独特のセンス。「ひきこもり」抜きにしても面白いので、ぜひ読んでみてください。

そういうあり方の是非はともかく、ひきこもり状態に悩み、脱け出そうとする人たちにとって、彼ら「ひきこもり芸人」がお手本にはならないことは確かです。彼らはあくまでもひきこもり当事者の立場で、ひきこもりの世界にとどまりながら情報発信しているからです。その世界からの脱出方法を尋ねるには、適任ではなさそうです。

こういったひきこもり界のタレントの影響によって、あるいは支援団体や当事者会の助けによって、「脱ひきこもり」できた人はどれくらいいるのでしょうね。具体的な実績を知りたいです。
まさかと思うけど、ひきこもりの人が卒業してしまうと商売上がったりだからといって、「ひきこもったままでいいんだよ」などと優しげな声かけをして、ひきこもりの人たちを骨抜きにしてたりしませんよね?

次回は、支援の「暗黒面」について「ひきこもり」の定義とその問題についてお話ししようと思います。 

③「定義する権力と名詞化の功罪」へ続く


©hamuta 2023 All Rights Reserved
当記事のSNS等でのご紹介は歓迎いたしますが、転載、複製、改変、送信等は禁止です。引用する場合は、引用元を明記してください。


よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポートは書籍購入や情報収集など、よりよい記事を書くための活動費に使わせていただきます!😊