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喫茶店でのイキり方

オレの家にはレコードプレーヤーがあるのですが、いまいち使い方がわからないので宝の持ち腐れになっています。それなりに場所を取るものですから、どうせ使わないなら処分してしまおうかとも思うのですが、逆にせっかく持っているのですから、いずれ使えるようになり、ジョン・コルトレーンとかチャーリー・パーカーとか聴きながらオンザロックでウイスキーを嗜むという、村上春樹っぽいイキり方をしてみたかったりするわけです。村上春樹がそういうイキり方をしてるかは知りませんが、そういうことしながら洋書を読んでるイメージがあります。

現実のオレはといえば、SpotifyでYOASOBIを聴きながらタカラ焼酎ハイボールをがぶ飲みし、筒井康隆の『日本以外全部沈没』を読んでいたりするわけです。YOASOBIを聴いていると年配の方になんかバカにされる時があるのですが、そういう時に実はこちら側がそういう人を哀れんでいたりすることもあります。

近頃は周辺でDJをする人が増えました。ラジオDJじゃなくて演奏会場などで再生機器で客に聴かせる人のほうです。あんなこと、オレもやってみたいし、あのたまにDJがやる、携帯で電話しながら手帳に予定書いてるみたいな仕草、あれをイキりながらやってみたかったりするのですが、ナチュラルにイキる域に達するまで、稽古を飽きない自信がない。かくもレコードというものは、イキりたい中年にとって(少なくともオレにとって)、なんとも厄介な存在なのです。

河原町七条西南角にあるDAVADA COFFEE & RECORDSは、そうやって恋心みたいなストレスを抱えながらレコードとお付き合いしているオレのような男のことも、分け隔てなく迎えてくれる優しいお店です。小さなお店に入ると「薫」とか「香」とか「芳」とかいう漢字が一気に浮かんでくるコーヒーのにほひ、カウンターの奥に寡黙なお兄さん、入口側がカフェで奥にレコードが並んでいます。自宅の部屋で夜、村上春樹的イキり方ができないオレは、この店でコーヒーを注文し、できあがるまでの間にレコードを漁ろうとするのですが、普段触りなれていないものですから、作法と異なる触り方をして怒られやしないだろうか、何気なく触れたレコードがめちゃくちゃ希少で何十万もするレコードだったらどうしようかとか、考えてしまうので、じんわり汗が出てきます。

つまるところ、そんな小心者がイキろうと思うのが間違いであり、それでも少しくらいイキってみたいということで一人称を「オレ」にしてみたりしているわけです。最近新譜を発表したタカダスマイルのポスターが貼ってあり、タカダさんがこっちに向かって笑っています。なかなかいい笑顔をしています。

窓から覗く河原町七条の交差点を眺めながら、オレは薫り高いコーヒーを啜り、店内のBGMに耳を傾け、陰のある男風に俯いて、人知れずイキっておきました。

#令和3年12月16日
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