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1人目の投票者になれた話 令和4年参議院議員選挙編

 涌井慎です。趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。趣味が高じたのか転じたのか何じたのか、わかりませんが、だんだん1人目であるなら、なんでもいいから、とにかく1人目になりたい、という思いが強くなってきました。そういうわけで、この2年ほどは、選挙があれば、誰より早く投票所へ向かい、1人目に投票することにしています。

 ご存じの方もおられるかと思いますが、投票所で1人目に投票する人は、投票をする前に、投票箱の中を確認させられます。箱の中に何も入っておらず、この選挙が公正であることを1人目の投票者が確認させられるのです。私は、もう何度か、この作業を担いましたが、絶対に空であることを、選挙のスタッフの皆さん全員がわかっているはずなのに、それをさらに私に確認させるという、その過程が、最初こそ、1人目の投票者たる私にしか、できない作業ですから、ドキドキしながら成し遂げたのですが、慣れてくると「なんやねん、この茶番は」と考えるようになってしまいます。性的な要素こそありませんが、何かしらのプレーなのではないかとさえ思えてきます。

 今からオマエは、どうせ空であることがわかりきっている箱の中身を見させられて「空です」と宣言させられるんだぞ。当たり前のことを言わされるんだぞ。

 どうせ茶番なんだったら、この際、投票用紙らしき紙を一枚入れておいて「何か投票用紙のようなものが入っていますよ!」「な、な、な、何!?それは由々しき事態である。君!1人目の投票者の義務として、その紙をすぐに取り出し、中身を確認しなさい!」「はい!かしこまりました!」慌てて紙を取り出してみたら「いつも朝早くに並んでくれてありがとう。この国がよりよくなることを私も願っています」などと達筆で書かれていて、顔を上げれば選挙スタッフと目が合い、ニヤリと意味深な笑顔を向けられる、というような、そういうことが、3回に1回ほどあれば、毎回私は興奮するかもしれない。

 それはさておき、毎回毎回同じ人が1人目になり、箱の中身を確認するのは、不正の温床となるのではないかとも思います。もちろん私はそんなことをしませんが、たとえば、選挙スタッフ全員が、◯◯党の支持者で、箱の中には既に大量の◯◯党議員への票が入っている。そこへ訳を知っている人間が1人目の投票者として箱の中身を確認し、「何も入っていません」と宣言する、などということは、起こらないとも限りません。そんなことは、あるはずがない、と思いますが、そんなあるはずのないことを、あるかもしれないと考えてしまうのは、今日までに何回か、1人目の投票者として箱の中身を確認したからです。あらゆる経験は、あらゆる思考の母なのだろう。私はアホばっかり産み育てています。

 これまでの経験から、盛り上がっている選挙ほど、朝早くに投票にくる人が多いということがわかっています。4月の府知事戦は、びっくりするくらい人が少なかった。今回も盛り上がりに欠けると言われておりましたが、「同情票」とか「香典代わりに1票」とか、なかなか、信じ難いことを書いている人もおり、いつもとは異なる様相を呈していて、選挙が盛り上がっているといえるのかは、わかりませんが、この奇妙な事態に胸騒ぎがして早めに投票しにくる人もいるのではないか、という気がして、5時50分に投票所入口に到着したら、誰もいませんでした。10分後、もはや顔なじみとなった、いつもの選挙スタッフの男性がやってきたので「おはようございます」と声を掛けると「いつもありがとうございます」と返してくれ、「では、いつもと同じ段取りで」とおっしゃいました。今日もいつもと同じ段取りで空の投票箱の中身を確認して「空です」と宣言するのです。

 6時10分頃、投票はがきを手にしたおじいちゃんがやってきて、入口で待っている私を無視して中へ入っていこうとしましたが、まだ準備中の館内を見て、おかしいと思ったのでしょう。私のほうへ振り返ったので「7時からですよ」と伝えると「そうかいな!ほな、まだ1時間もあるやないか!」とおっしゃるので「50分くらいですね」と返しました。50分を1時間と言ってしまうのは、雑すぎる気がしたのですが、おじいちゃんにしてみれば、私の指摘は「細かいことを言うなや」という感じだったことでしょう。こんなちょっとしたところさえ、他人同士、違うものなんですから、選挙で限られた人の中から、誰かを選ぶというのは、実に難儀なことなのです。しかし、民主主義の根幹を揺るがされ続けております。おととい、民主主義の根幹を揺るがす許し難い蛮行がありましたが、それより以前から、民主主義の根幹は揺るがされ続けていると思います。揺らぐ民主主義をがっちりと支えるのが、私の1票であり、さっきのおじいちゃんの1票であるのです。今、私は、キン肉マンと悪魔将軍が戦うリングを下で支える超人たちをイメージしています。悪魔の断頭台を躱すためには、1人1人のモブの力が必要なのです。あなたがカナディアンマンなら、君がスペシャルマン、誰もやらないなら、私がカレクックになりましょう。カレーを頭に乗せてくるのを忘れました。

 6時50分、いつの間に集まったのか、15人ほどのスタッフの皆さんが円になり、注意事項を確認し合っています。この投票所は、中学校の体育館で、円になったスタッフの皆さんの頭上には、バスケットゴールがあります。バスケット部の朝練のように見えてきます。そういえば、どうして私は、選挙開始前に館内を見ることができているのでしょう。昔は開始までは扉が閉められていたはず、と思ったら、そうか、感染症対策か。換気のために開けているのか。そんなことも忘れてしまうくらい、長い長いコロナ禍となりました。コロナに対する考え方も十人十色。人の意見を尊重すれば、自分の意見が封じこめられてしまいます。実際にどう思っているかは別でもいいから、互いの立場を慮り、お互い大変ですよねと、途方に暮れ合うことも必要なのではないかと思う。

 7時5分前、ようやく数人、私の後ろに並びました。どうやら今回も、さほど盛り上がっていないらしい。

 「それでは、これより、投票を開始いたします」7時、スタッフの一人が宣言し、拍子木を一打ちします。1人目に館内へ入り、1人目に投票はがきを渡し、1人目に誕生日を確認され、1人目に投票用紙を渡され、1人目に候補者名を記入して、空の投票箱の中を確認し、空です、と宣言し、「投票箱の中が空であったことを確認しました」という署名をしました。比例にも1人目に投票しました。

 4月の府知事戦の頃の葉桜は、すっかり緑を讃えています。7月9日・日曜日、令和4年執行、参議院議員通常選挙、中京区第二十二投票区投票所の1人目の投票者は私です。

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