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令和6年読書の記録 東野圭吾『容疑者Xの献身』

 天才数学者でありながら不遇な日日を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、二人を救うため完全犯罪を企てる。だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。ガリレオシリーズ初の長篇、直木賞受賞作。

↑文庫版裏表紙より

 テレビドラマのガリレオシリーズを私は観たことがなく、主人公が福山雅治だということくらいしか知らなかったので、最初、石神が福山雅治なのだと思って読んでいたのですが、風貌がどう考えても福山雅治ではないので、さすがにこれは変えすぎやろと思っていたら湯川学が福山雅治でした。知らないということは絶妙に判断を誤らせるものなのです。

 物語においても「知らない」ことにより、石神が想いを寄せる靖子には悲劇が訪れ、これまた靖子に想いを寄せる工藤の靖子を思っての行いが場違いで滑稽なものに見えてしまいます。事実を事実のまま受け止めていても、何か重要なことを知らなかったり、見えていなかったりするだけで真実には辿り着けない。ミステリーというのはまさに読者の「見えていなさ」を逆手に取ったものであるともいえます。

 大変面白い作品でしたが、フィクションであるとはいえ、このような殺人が道義的に許されるものなのであろうか、という憤りにも似た感情が芽生えました。いや、殺人なんてものは絶対に道義的に許されるものではないんですけれども。それにしてもそこまでして読者を欺きたいのかと。しかし、ミステリーを読み慣れておられる方からすると、それもよくある手法なのかもしれず、つまり、私の憤りもまた、「知らない」ことによるものなのかもしれません。

 知れば知るほど知らないことが出てくるからきりがないけど知らないことは知るに限りますね。私にとってそんな当たり前のことを再確認した作品でした。

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本を出しているという点だけ切り取れば私だって東野圭吾と同じである。著書『1人目の客』はウェブショップ「暇書房」で販売中!

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