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短編小説『歩きスマホ危ないよぉ』

 あたし、歩きスマホって大嫌い。ぶつかりそうになったらビックリしてこっちを睨みつけてくるの。おかしくない?危ないことをしてる人のことをこっちが気をつけなきゃいけないって何様?地球はあなたを中心に回っているんですか?そんであたしが女子だからみくびって睨みつけてるんですよね。だって睨みつけるまでに数秒の間があるんです。あの間で睨みつけていいやつかそうでないやつか見極めているんでしょう。どうせなら瞬間湯沸かし器のほうがマシ。あたしだからとか屈強な大男だからとか関係なく睨みつけるわけでしょ?こっちが女子だからってわかってから睨みつける輩と比べたら全然マシ。全然マシだからって良いってわけじゃないよ。最初っから歩きスマホって大嫌いって言ってるじゃない。

 腹が立つけど睨みつけられて睨み返しても何がどうなることもないからあたし、最近やってることがあって。別にたいしたあれじゃないんだけど、前までは歩きスマホを見つけたら腹を立ててて、そのうえ睨みつけられてまた腹を立ててって感じで、なんていうか、腹立ち待ちしてるみたいな?腹立つよ、腹立つよ、今から腹立つよ、あたしのアウトな線を越えてきたらあたし、腹立てちゃうよ!ほらー、腹立ってしもたーって茶番で腹立ててたんだけどアホらしいからそれをやめて。歩きスマホを見つけたらすれ違い様に耳元で「危ないよぉ」って囁いてあげることにしたの。「危ないやんけ!」って怒鳴ったりしたらやっぱり向こうも喧嘩腰になっちゃうし、そしたらあたしも不愉快になるじゃない?それってやっぱり悲しいことだから、それなら優しく「危ないよぉ」って囁いてあげたらさ、向こうも悪い気はしないだろうし、ひょっとしたらそれがきっかけになって「歩きスマホ、確かに危ないよな」って反省して歩きスマホ、やめてくれるかもしれないじゃない?可能性としては低いことかもしれないけど「危ないやんけ!」ってやかっちゃうよりかは発展的だと思うわけ。

 そしたら笑っちゃうんだけど、歩きスマホ見つけたら「危ないよぉ」って言ってやろうと思ってこっちも歩いているじゃない?そしたら一日に5人くらいは必ず囁くわけ。気をつけてたら歩きスマホってホントに多いの。びっくりしちゃう。一ヶ月くらいそれでも続けたの。そしたらどうなったかってあたしもこれは予想外だったんだけど、世の中にはそういう癖がある人って多いのかわかんないんだけど、女子に耳元で「危ないよぉ」って言ってもらいたいおっさんが四条通りの歩道で行列作ってるわけ。みんな歩きスマホしてるんだけど、スマホじゃなくてあたしのことが気がかりだからちゃんとスマホを見れてなくって。スマホ見てるフリしてあたしをチェックしてるから自然、交通状況にも目を配るようになったわけ。おじさんたち、みんなが似非歩きスマホになってあたしの「危ないよぉ」待ちしてるの面白いよ。男ってアホなんだね。

#令和4年3月29日  #小説 #短編小説
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