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アンコンシャスバイアスってやつを

 『文藝』2022年春号の特集は「母の娘」。母娘の関する創作やエッセイ、対談などが掲載されており、どれも面白かった。金原ひとみさんの『愛を知らない聖者ども』は家族の設定が「?」やったんですが、その「?」は私のステレオタイプからくる「?」であり、良質な小説って「あなたの持ってるその?、ほんとに?なん?」と問題提起してくれるのね。って思った。

 金原ひとみさんの作品はSFではないですけれど、後ろのほうに掲載されていたイ・スヒョン『韓国SFと世界SFのフェミニズム』のなかに「SFを読む最大のメリットが、異なる世界を想像し、慣れ親しんでいる思考の枠を外して考えの幅を広げられること」という一文があり、これってSFの部分を「小説」に変えてしまってもいいよな。

 それでいくとチョン・ソヨンの短編『おうち』の訳者すんみさんの解説に「この作品は登場人物の性別を特定できない形で描かれている。理由がない限り、性別を限定しようとしない最近の韓国フェミニズムSFの流れを汲んだ描き方と言える。訳す際にも、どの性別でも読めるように細心の注意を払った。もし読んでいて男女の先入観が入ってきてしまうとしたら、訳者の力不足であると同時に、私たちが「ジェンダー」という大きな抗いがたい力に翻弄されているからかもしれない」と書いてありドキッとしました。私は多少違和感を抱きつつも完全に片方を男で片方を女として読んでいたから。


 そうやって無意識に抱いてる思い込みに我ながらショックを受けながら同じタイミングで星新一『未来いそっぷ』を読んでいたのも偶然なのか必然なのか。「ジョジョの奇妙な冒険」によるとスタンド使い同士は引き寄せ合うらしいですが、なんとなく自分の調子が上向きのときはこういう引き寄せ合い方をするような気がする。誰にでもマネできそうな平易な文体でわかりやすく綴られるおかしな物語がクセになる。星新一の世界もまた、この世界に期待するステレオタイプをいとも簡単に打ち崩してくれるのです。どの話も面白いけど、このなかではサンタクロースが出てくる「ある夜の物語」が好き。こういう世界の打ち崩し方ならなんぼあってもいいですからね。


 偶然なのか、必然なのか、そんな星新一の短編集と並行して読んでいた言語学者の黒田龍之介さんの『物語を忘れた外国語』にも星新一が出てきた。黒田さんは中学生の頃だったかに星新一にハマってよく読んでいたそうなんですが、確かに言われてみれば、難しい言語や外国語に関するお話を実にわかりやすく丁寧に解説するその文体は星新一のようでもある。堅くなりすぎず、かといってわかりやすくしすぎて本質をすっ飛ばしてしまうようなこともなく、外国語学習の面白さを語ってくださる、この人がいなかったら、外国語学習に興味は持たなかっただろうな。外国語学習も無意識の思い込みを捨てるための手段の一つやと思いますねん。

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