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三島有紀子監督に1人目にサインをもらった話

 本作は、国内外の映画祭で高い評価を受ける三島有紀子監督⾃⾝が47年間向き合い続けた「ある事件」をモチーフに⾃主映画からスタートしたオリジナル企画。「性暴⼒と⼼の傷」という難しいテーマにあえて挑み、⼼の中に⽣まれる罪の意識を静かに深く⾒つめる映画である。⼋丈島の雄⼤な海と⼤地、⼤阪・堂島のエネルギッシュな街と⼈々、北海道・洞爺湖の幻想的な雪の世界を背景に、3つの罪と⽅⾈をテーマに、⼈間たちの “⽣”を圧倒的な映像美で描いていく。本作に登場する“れいこ”とは、いったいどういう意味を持つのか。
ひとりの人間が発したか細い声は、はるか海を超え、波に乗り、どこかの誰かへと届くかもしれない。
これは声なき声で繋がるすべての人の物語。

↑映画公式HPより

 洞爺湖中島、八丈島、そして大阪堂島。三つの島を舞台にした映画を作ったのが「三島」監督というのは単なる偶然で、決して自分の苗字が「三島」だから三つの島の物語を作ろうと思ったわけではないそうです。

 先日、出町座で映画を観たあと、映画研究者の木下千花さんと三島監督のトークイベントがあり、映画についてお話をされていて、これがまた実に面白かった。三島監督は「性被害」についてのご自身の経験を基に今回の作品を制作するにいたったわけですが、なんだったかな、自身の体験をそのまま映画化してしまうと、被害者と加害者がはっきりしてしまうけれども、我々の生きる世界は被害者が被害者なだけでなく被害者が知らずうち、加害者になっている場合もある。こっちが正しくてこっちが悪いという、単純な問題としてではなく描きたかったというようなことをおっしゃっていました。

 その話を聞くまでもなく映画が三つの物語で構成されており(本当は最終章あわせて四つある)、重層的というのか、それぞれの物語が重厚で繊細で見ていて辛くなったりもするんですが、なんというか、その「難しさ」こそ、我々の生きる世界そのものであるはずなのに、ともすれば近頃は特に「Make America Great Again」というようなキャッチーでわかりやすい世界に吸い付きがちであるし、イスラエルとパレスチナ、どっちが正義でどっちが悪やねん、とか、サッカーJ1の監督ともあろうお方が「我らこそが正義」などと豪語したりとか、本来難しい話を単純にすり替えて、楽な方へ転がっていきがちになっています。

 そういう楽な方へ転がっていきがちな世界に敢然と「待った」をかけているように思えていたところ、アフタートークで上記のようなことをお話されており、なんというか、三島監督のことを、この人は簡単に楽な方を選ばない信頼できる表現者だなと思いました。

 今回、「れいこ」という名前の登場人物が洞爺湖編にも堂島編にも出てくるのですが、八丈島編には出てこないんですよね。それが何故なのか、ということを私はそこまで考えずにいたのですが、アフタートークでその謎について監督から言及があり、私はなんだか悔しかった。言われてみれば確かにそうやん!と思ったんです。監督ご自身は「わかってもらうように描いていないからわからなくて当然」とおっしゃっていましたが、いやいや、映画に親しんでいる人ならきっと気づいたんじゃないかと思うし、そういうところに気づける映画鑑賞と気づかず通り過ぎる映画鑑賞とでは、面白さが百倍違うよな、と思いました。もっともっといろんな映画を観て鍛えないといけません。こういうのって死ぬまで鍛え抜けると思うので。四十にして惑わずなんて嘘やねん。惑い続けることで鍛え続けられる。

 個人的に激しく腹が立った場面があり、堂島編で前田敦子さんが演じる「れいこ」がホテルで寝ている間、レンタル彼氏が似顔絵を描いているんです。もちろん、れいこには内緒で。その行為がなぜか私は道徳的に絶対無し!だと思っていて、その後、別の場所でまた無断でれいこの姿を描いているのを見つけたれいこが、「キモい!」とめちゃくちゃ罵倒してくれたので激しくすっきりしました。

 自分の物語としてではなく、自分の抱え続けた傷のことを物語にするなんて、きっと苦しみも伴ったことであろうと思いますが、こんなに難しくてそれであるがゆえにずどんと胸の奥へと響く映画になったのでしょうね。出町座で公開されている間に本当ならもう一回観に行きたいのですが、6月20日(木)までなので私は都合がつかず観に行けません。これを読んで少しでもご興味持たれた方は是非、観に行ってくださいませ。

 最後にごくごく個人的なことを。
 アフタートークのあと、映画のパンフレットを購入し、三島監督にサインをいただいた1人目の客は私です。

観られるなら絶対観てほしい映画
三島監督、かっこええです

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私の著書『1人目の客』と、近頃は推し活に着用している人もいる1人目の客Tシャツはネットショップ「暇書房」にてお買い求めいただけます❤️

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