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エッセイ『地下のエレベーター』

 土曜日、商業施設の8階にある局に着くとオレはまず、1階のポストに投函されている新聞6紙を取りに行く。エレベーターで地下1階まで降りてから、地下の駐車場を通っていくのがポストへの最短経路だ。平日は早朝の番組スタッフが取りにいくが土曜日の朝は時事ネタを扱う番組ではないので新聞はスルーされている。と書いておきながらなんなんだが、時事ネタを扱う番組が新聞を読んでいていいのかという懸念も現代社会においては存在してしまう。新聞は発行された頃にはもう旧聞になっている。新しいことを知るためのものではなく、知っていることの確認をするためのツールになっている。そういうツールとしては、いまもかなり重宝している。欲しくない情報まで掲載されているのがうれしい。ネットは「あなたが望んでいるのはこんな情報でしょ」と先回りしてくるのが鬱陶しい。魏の曹操が楊脩を処罰した気持ちがよくわかる。新聞はそのへん、まったくオレに対して忖度しないところがいい。ラジオにも似たようなところがある。少数派かもしれないがオレのような人間は今後増えていくだろうと思う。マイノリティ同士、助け合っていかないといけないと思うが、なかなか理屈に合わないことをやるのが人間というものであり、斜陽業界であればあるほどマイノリティには目を向けない。長いものに巻かれ多数派に取り入るしか無くなってしまう。しかしそれではせっかくの面白みがなくなってしまう。わかっていて見ないようにしているのか、本当にわかっていないのか、どちらのほうが救いが無いだろうか。

 ポストから新聞を取り出して地下1階のエレベーターへ戻ると、エレベーターはまだ「B1」に在った。オレがエレベーターを出てポストから新聞を取り出し再びエレベーターへ戻ってくるまで3分ほどの間、誰もエレベーターを使う人はいなかったらしい。とオレは結論づけたのだが、これは単なる思い込みであり、ひょっとしたらその3分ほどの間に誰かがこのエレベーターを使って別のフロアへ行き、また別の人間が地下1階までやってきたため、「B1」に戻ってきているのかもしれかい。可能性は十分あるのにオレは咄嗟にこの間、誰もエレベーターを使う者はいなかったと思ってしまった。どちらでもオレにとって大きな影響の無い話だがしかし、ここで別の可能性を考えるということが、未来のラジオ業界には重要なのではないかと、先入観によりエレベーターはずっと地下に在ったと考えてしまったことをオレは深く反省したのだ。

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