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短編小説『エフエム網干のこと』

令和4年8月31日

 この春からエフエム網干の昼の番組を担当することになりました。米原千春さんの番組です。ローカルなので検索しても何も情報は出てきませんが、僕はそれが逆に今、面白いんじゃないかと思っています。何事も前向きに取り組まねばなりません。それでも網干では聴取率がけっこう高いんですよ。地元のリスナーさんを大切にしているからでしょうね。気取ったところもないしね。東京にばかり目が向きがちになるなか、地元の企業との連携もしっかりしていて、企業の側もエフエム網干を信頼しているようです。聞いた話ですが、網干にある、割と大きいアパレルメーカーの社長が最近交代してアメリカ人になり、合理的思考をもつ新社長は広告費用から、まずラジオ部門の広告費を削除しようとしたそうです。ところが、社員の皆さんが一丸となり、数字に表れない地元密着型ラジオのメリットについて語り、エフエム網干からも担当の方が説得に出向いたところ、従来以上に費用を充ててくれることになったそうです。いまでは社長自らがパーソナリティとなり、洋楽のレコードをかける番組はエフエム網干でも指折りの人気番組になっています。ラジオをやってる人間がラジオは終わりだなんて言ってどうするんだって以前、山下達郎さんが言っていましたが、エフエム網干には、そんなことを言う人が一人もいません。それどころか、ラジオにしかできないことを日々、模索しています。面白いのがエフエム網干では「詳しくはホームページをご覧ください」と「メッセージテーマの設定」を禁止にしていることです。ネット検索すれば出てくるような情報をラジオで垂れ流すなという方針なんです。また、メッセージテーマの設定を禁じているのは、あんなものは作り手が楽をしたいだけだからだというんですね。番組作りをリスナーさんに投げるなというわけです。こういう厳しいところがある反面、何か事故が起こっても、必ず責任を取ってくれるのも有り難いところです。できない人間は、何かしら捏ねくり回して勿体ぶった理由を作り、自分には責任が無いことを主張しますが、あれこそ、無駄な遠回りをしていて非合理的なんですよね。今回の責任はすべて僕にあると認めたうえで即座に次に向かって進んでくれる責任者がいるというのは、そこで働く人間にとってどれだけ有難いことなのか、ということがわかりました。番組が終わったら、駅前の飲み屋街で昼間から酒を呑むんですよ。ここの飲み屋さん、全ての店舗がエフエム網干のスポンサーさんなんです。少額ずつではありますけどね、やっぱり信頼し合ってるんですよね。飲み屋さんのほうも金出したっとるんじゃっていう横柄さが無いし、エフエム網干にもメディア特有の上から目線がありません。実に気持ちよくお酒を呑み、京都へ帰ります。ああ、今日こうやって書いたことが、少しでも現実に起こりはしないかと電車に揺られて寝るのです。

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