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地獄の猫~禁断の領域に閉ざされた祭祀の秘密【怪談・怖い話】

恐怖の名残りが蠢く森の奥地に赴いた吸血鬼ハンターの半生を綴る。

私の名はヴィクトール・デウスベルト。吸血鬼ハンターとして数々の戦いに明け暮れてきた。その生涯で最も恐ろしい出来事が、森の奥地にあった。そこでは禁忌とされていた獲物が待ち受けていた。

霧に包まれた森の中を進むこと数時間。深緑の木々が暗闇を作り出し、まるで別世界に迷い込んでしまったかのようだった。そこには夜の獣たちの生々しい臭いが立ち込めていた。やがて、薄暗い森の奥からひとつの祠が見えてきた。焼け焦げた木の像が祀られ、その周りを何かの足跡が取り巻いていた。

祖母の話を聞いていたころの私には、この"猫に対する呪い"がどれほど深刻で恐ろしいものだったのか分からなかった。両親は猫を飼うことを強く禁じ、幼い私にとって納得できる説明がなされたわけでもない。しかし今に至って、私はその禁忌のただならぬ重みを知ることになる。

街道ゆえの交通事故死は理解できる。しかし、その他の猫の不可解な死に方は何を意味していたのだろうか。祖母が見た井戸への転落死。そして猫を祭った祠の存在と、それに纏わる呪いの噂。私には謎が多すぎる。母からは「忌まわしい出来事だった」と打ち明けられたことがあるが、決して詳しく話をしてもらえなかった。

大学時代、私は郷里に残された"猫の呪い"の真相を探ろうと決心した。図書館で文献を漁り、地元の古老に事情を聞いた。しかし真相の全容は分からず、ただ不気味な言い伝えとデマに怯える人々が数多くいたことしか掴めなかった。

そうこうするうちに就職し、さらに数年が経過した。

私はふとした思いつきから、故郷を離れた遠くの村で有名な"猫の霊媒師"を訪ねることにした。彼女は猫の霊を媒介するという不思議な能力を持つ老婆だった。

「この村で何が起きていたのか分かる。猫たちの怨念が強烈なのです」

老婆は私に、夜な夜な森の中で猫の声が聞こえると語った。人里離れた山の奥の祠で、古びた猫の像が祀られていると言うのだ。

「そこは決して近付いてはいけません。猫の呪いの生け贄となりますぞ」

警告を受けながらも、疑問を晴らすため、私は森の奥を目指すことにした。

翌朝、村人たちが私の姿を捜し歩いていた。

夜が明けても私は戻らなかったのだ。そこで老婆が私の行方を探り当てる。私はおぼつかない意識の中、森の奥の祠で祀られていた猫の像に捕らわれていた。周りには血生臭い獣の死体が転がっており、私はそれらを食い散らかしていたらしい。
「あなたは、猫たちの呪いにかけられてしまったのです。今は、吸血鬼ハンターから吸血鬼へと変貌を遂げてしまった」

老婆の言葉に戦慄した。猫への執着心が呪いを招き入れてしまったのだ。私は猫たちの怨念に取り憑かれ、不死の化物と化してしまったのである。人里へ近付くことすら許されず、呪いから解かれるすべがない。私は今後、地上を彷徨い続けなければならないのだ。


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