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団地の怪異と家族の秘密【怪談・怖い話】


知人から聞いた話(伝聞)

彼が幼い頃に住んでいた団地の一室には、頻繁に右手が落ちていた。もちろん、人間の手ではなく、リカちゃん人形のようなプラスチック製のパーツだ。小指の爪ほどの大きさの手首から先の部分で、しなやかな指が上品に揃っている。その右手が、彼の家ではころりと落ちていた。

彼の一家は男所帯で、父親と四人の兄弟が暮らしていた。父はゴリラに例えられるほど強健で、長男は猿、次男は熊、三男はメガネをかけた虎、そして彼は手のりカピバラと呼ばれていた。母親は既に亡くなっており、生きていた時はナマケモノに似ていたという。

おもちゃなど贅沢品がない家庭で、唯一の遊び道具が新聞紙とチラシ、牛乳パックだった。その貧しさが右手の出現を一層奇妙に感じさせた。

右手の謎

「毎回違うパーツが落ちてくるならまだ遊びようもあったのに」
「右手だけじゃなあ」
「いらねー」
「踏んづけると地味に痛くてやだ」
「たまに虫と勘違いしてビビる」
「ゴミ箱にいっぱい溜まってるとちょっとキモい」

兄たちは右手を平気で拾って捨てていたが、彼は恐れて触ることすらできなかった。見つけると兄たちに助けを求めていた。
「なにが怖いんだよ、こんなの」とよく言われたが、彼にとっては怖いものは怖かったのだ。
「兄貴たちがおかしいんだよ。あるはずのないものが家にあったら怖いに決まってるだろ」

小学二年生の頃、引っ越すことになった。荷造り中、突然頭上からバラバラと細かいものが降ってきた。大量の人形の右手だった。彼は悲鳴をあげて飛び退いた。兄の悪戯かと思ったが姿はなかった。
「うれし、うれし」
呆然とする彼の頭上から、笑いを含んだしわがれた声が聞こえた。
「うれし、ねえ」
頭上を見ても天井しかなく、声の主の姿はなかった。

「うれしって、嬉しいって意味か?」
「知らね。少なくとも俺は嬉しくなかった」
「それはまあ、そうだろうけど」

後日談

その事件から数十年が経った今、彼は大人になっている。奇妙な出来事の影響で、彼は右手フェチになってしまった。日々、理想の手を探し求める彼の目は光り輝いている。理想の手は白く、ほっそりとしており、指の太さが均一で爪は凹凸のない縦長。シワが少なく毛穴の目立たない、滑らかでしっとりした柔らかい手だ。

彼は人形の右手を見つける度に、その手に魅了されることを思い出す。ある日、彼はアンティークショップで見つけた古びた箱を開けた。中には見覚えのある右手が詰まっていた。その手の形は、幼い頃に見たものと同じだった。彼はその手を見つめ、昔の恐怖と現在の欲望が交錯する中、ある決心をした。

その箱の中には、一枚の古びた手紙が入っていた。手紙には
「この右手は、かつての持ち主に幸福をもたらす。しかし、その代償として持ち主はその手に取り憑かれる」
と書かれていた。彼はその言葉に震えたが、同時に強い興味を覚えた。

彼は手紙の指示に従い、右手を持ち歩くことにした。すると、驚くべきことに次々と幸運が舞い込んできた。
昇進、宝くじの当選、素敵な出会い。全てが思い通りに進んだ。しかし、彼は徐々に異変に気付き始めた。夜中に右手が動き出し、彼の思考を支配しようとするのだ。

彼は恐怖に囚われながらも、その右手を手放すことができなかった。幸福を得るために、彼は代償を払う覚悟を決めたのだ。
彼の人生は、再び右手に支配されることになったが、彼はその代償を甘受することにした。かつての恐怖が、今や彼にとっての快楽となったのだ。

右手の呪縛は、彼にとって永遠のものとなった。果たしてこの先、彼の運命はどのように変わっていくのだろうか。それは誰にもわからない。ただ一つ確かなことは、彼の人生は二度と平凡なものには戻らないということだ。


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