見出し画像

雨の日のおんな【怪談・怖い話】

雨の日の町は、どこか現実とは異なる空間に変わる。街灯に照らされた道路が雨に濡れ、光が滲んで妖しく揺れる。そんな中、あたしの住む町には、奇妙な都市伝説がささやかれる。雨の夜にだけ現れる「雨の女」の話だ。

ある晩、駅から家へ帰る道すがら、土砂降りの雨があたしを打ちつけた。傘を差している意味がないほど、ズボンの裾から靴の中まで水浸しだった。そんな中、家に近づくと一人の女性が街路の片隅に立っているのが見えた。真っ白なワンピースに、長い黒髪が濡れて背中に張り付いている。ふとした瞬間、あたしの足はその場に止まった。

「大丈夫ですか?」声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。その顔は美しいが、どこか冷たく感じられた。

「道に迷ってしまって……少しだけ、傘に入れてもらえませんか?」彼女の声は、雨音の中に溶け込みそうなほど儚かった。

戸惑いながらも、あたしは彼女を傘の中に迎え入れた。歩き出すと、彼女の話す内容に次第に不安が募った。彼女は自分の家の場所をあいまいに話し、具体的な住所や目印は一切言わないのだ。

「家に着いたら、お礼を言わせてくださいね。」彼女は微笑みながら言った。その笑みには、何かしら不吉な予感が潜んでいた。やがて、彼女は古びた一軒家の前で立ち止まった。見れば見るほど、今にも崩れ落ちそうなほど朽ち果てた家だった。

「本当にここに住んでいるんですか?」と尋ねると、彼女はただ静かに微笑んだ。彼女がドアを開けると、中から冷たい風が吹き抜けてきた。その瞬間、あたしは何かが非常に間違っていることに気づいた。

「ありがとう。もうここまでで大丈夫です。」彼女はそう言って、家の中に消えた。あたしが立ち去ろうとしたその時、ドアが再び開き、中から老人が現れた。その顔には驚愕の表情が浮かんでいた。

「あなた、彼女に会ったのですか?」老人は問いかけた。

「ええ、道に迷ったと言っていたので、ここまで送ってきたんです。」あたしは答えた。

老人は深い溜息をつき、語り始めた。「その女性は、何十年も前に亡くなった私の娘です。彼女は雨の日にだけ現れ、道に迷った人々をこの家まで導くのです。そして、その後、その人々は二度と戻ってこない。」

背筋が凍る恐怖を感じながら、あたしはその場を一目散に離れた。振り返ることなく、家まで走り続けた。それ以来、雨の日には外に出ることを避けるようになった。この話を誰にも話すことはなかったが、あなたには伝えたいと思った。

もし雨の夜に、一人の女性が傘を借りたいと言ってきたなら、どうか気をつけてほしい。彼女は「雨の女」、そして彼女と共に行けば、二度と戻ってこれないかもしれないのだから。


#怖いお話ネット怪談 #怖い話 #怪異 #怪談 #ホラー #異世界 #不思議な話 #奇妙な話 #創作大賞2024 #ホラー小説部門

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

今後とご贔屓のほどお願い申し上げます。