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深夜に鏡を覗いてはいけない【怪談・怖い話】

「あんた、深夜に鏡を覗いたら、ろくなことが起きんよ」。
祖母の言葉が今も耳に残る。子供の頃、そう言われるたびに、鏡の中から手が伸びてくるイメージが浮かんで、夜な夜な布団をかぶって震えたものだ。しかし、大学生になって理系の道を歩むうち、そんな迷信を信じることはなくなった。

ある深夜のこと、テスト勉強に追われ、寝不足で目がしょぼしょぼしていた。時計は午前2時を指していた。無意識に鏡を見たその瞬間、祖母の警告が頭をよぎったが、「馬鹿馬鹿しい」と笑い飛ばしてしまった。科学的に考えれば、鏡はただの反射だ。ところが、その瞬間、鏡の中の「私」が微笑んだ。

思わず固まった。自分は笑っていないのに、鏡の中の「私」はにやりと笑っていたのだ。恐怖に包まれた。手が、鏡の向こう側から伸びてくる。次第に、あたしに触れそうなほど近づいてきた。「ぎゃああ!」と叫び、部屋を飛び出した。

翌朝、夢だと言い聞かせた。だが、鏡の前に立つと、そこには明確な手の跡が残っていた。まるで鏡の向こうから押し付けられたような跡だった。冷たい感触が指に伝わり、再び恐怖が蘇った。

それ以来、あたしは祖母の言い伝えに興味を持ち、町の図書館を巡った。驚くべきことに、恐ろしい事件が過去に起こっていた。ある女性が鏡に魅入られ、正気を失い、最後には鏡の中に引き込まれたという話。その女性の名前は、偶然にもあたしと同じ名前だった。

さらなる調査で、その女性があたしの祖先の一人であることが判明した。祖母が警告していたのは、この恐ろしい出来事を防ぐためだったのだ。あたしの家系には、深夜の鏡を覗くことに関する呪いがあったのだ。

それ以来、深夜に鏡を見ることは避けている。夜中に目が覚めると、鏡の方から視線を感じることがあるが、あの恐ろしい夜以来、鏡の中の「私」は現れていない。しかし、視線の感覚は今でも続いている。

数年後、祖母が亡くなった後、あたしは再び祖母の家を訪れた。古い姿見もそのままだった。恐る恐るその姿見の前に立つと、あの夜の記憶が蘇り、冷や汗が流れた。しかし、もう一度確かめる必要があると感じた。

鏡を覗き込むと、そこにはあたしの顔が映っていた。しかし、何かが違う。無表情な顔が映っていたが、その無表情の中にかすかな悲しみが感じられた。まるで何かを訴えかけているかのようだった。

その夜、あたしは鏡の前で眠ることを決意した。何かが起こるかもしれないという恐怖と、真実を知りたいという好奇心が交錯していた。深夜にふと目が覚めると、鏡の中の「私」が動いていることに気づいた。彼女は手を伸ばし、何かを言おうとしているようだった。

恐怖を振り払い、鏡に近づくと、彼女の口が動き、かすかに「助けて」という声が聞こえた。祖先の女性が訴えかけていると悟った。彼女は鏡の中に囚われているのだ。

それ以来、あたしは祖母の遺した古い日記や書物を読み漁り、呪いを解く方法を探している。まだ完全には解明できていないが、少なくとも真夜中に鏡を覗くことの危険性を理解した。

迷信だと思っていたことが実は真実だったと気づくことは恐ろしい。


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