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二つの世界の狭間で【怪談・怖い話】

これは、北陸のある町に住む山下君が体験した話だ。

山下君は高校三年生の時、ある女性のために東尋坊を訪れた。その女性とは、数年前に東尋坊から落ちて亡くなったクラスメートの沙織さんであった。彼は毎年、沙織さんの命日に東尋坊へ行き、彼女を弔っていた。そんなある日、山下君の母親から電話が入った。兄が植物状態からついに亡くなったという連絡だった。しかし、母親の声には悲しみの色はなく、冷たい口調で事務的に知らせてきた。

東尋坊の崖に立っていた山下君は、ショックと悲しみに暮れていた。そして、そのまま足を滑らせ、崖から落ちてしまった。しかし、彼が気づいた時、そこは見覚えのない場所だった。山下君は自宅に戻るが、そこで異変に気づく。家には見知らぬ女性がいたのだ。

その女性は、彼の姉だという。しかし、山下君の知る世界には姉などいなかった。彼の両親は二人の子供しかつくらないと決めていたが、姉が死産したために彼が生まれたのだ。しかし、この世界では姉が無事に生まれ、代わりに山下君が存在しなかった。

姉と山下君は戸惑いつつも、やがて状況を受け入れ、二つの世界の違いについて語り合った。まず目に入ったのは、リビングに飾られた皿の有無だった。皿は両親の結婚記念に作られたもので、山下君の世界では割れて捨てられていた。しかし、この世界では無事に飾られていた。

山下君の世界では、両親の不倫が発覚し、大喧嘩となり、その時に皿が割れた。その結果、家庭は冷え切り、兄も荒れて事故に遭った。しかし、この世界では、姉が両親を咎め、不倫は止まり、夫婦仲は修復された。皿は割れず、兄も生きていた。

また、山下君の世界では、母親が彼を父派と決めつけ、食事を用意しなくなったため、彼は近所のうどん屋で食事をしていた。しかし、そのうどん屋の主人は病気で亡くなり、店は閉店していた。しかし、この世界では、姉が事故でイチョウの木にぶつかり、木が切り倒されたため、渋滞が解消され、主人は助かった。

さらに、山下君が姉と一緒にいた時、彼女を呼び出した人物が現れた。それは、東尋坊で死んだ沙織さんだった。しかし、この世界の沙織さんは明るく、姉を慕っていた。彼女は精神的に不安定で、身近な人を模倣する性質があり、この世界では姉の明るさを映していた。

山下君は、自分が生まれなかった方が皆が幸せだったのではないかと苦悩し、自分を責めた。そして、彼は元の世界に戻ることをためらい、自ら命を絶とうとした。しかし、気づくと再び東尋坊に戻っていた。

母親からの冷たいメールが後押しとなり、彼は海に飛び込もうとした。しかし、最後に届いた姉からの電話が彼を引き止めた。「イチョウを思い出して」と言われ、その言葉に何かを感じ取った山下君は、帰宅することを決めた。

家に戻ると、父母は彼を責めることなく、温かく迎え入れた。彼は自分の存在が他者に与える影響を深く考え直し、新たな決意を胸に秘めたのだった。



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