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小物問屋の若旦那【怪談・怖い話】

友人から聞いた話。

Tは、父親の体調不良のため会社を辞め、家業の小物問屋を継いでいます。Tはおっちょこちょいで、ここ数年で自家用車一台と仕事用バン二台を大事故で廃車にしています。しかし、驚くべきことに彼自身は無傷でした。

その日は、Tが最後の納品を済ませ、事務所に戻る途中のことでした。時間はまだ午後4時、Tは「急げば早上がりだ」と思い、車を飛ばしていました。大きな交差点を左折した時、後部でダンボールが崩れる音がしましたが、Tは気にせず更にスピードを上げました。

次のカーブを曲がると、今度はダンボールに入っていた小物がばら撒かれる音がしました。

「やっちまったな」と思い、Tは後ろをチラリと振り向いた。その瞬間、Tは凍りつきました。ダンボールとダンボールの隙間から、後ろ向きで体育座りをする子供の肩と腕が見えたのです。しかもその子は上半身裸で、顔は見えず、髪型から小学生の女の子かと思われました。

Tは、「いじめられっ子が車に逃げ込んだのか?」と思い、すぐに路肩に車を止め、ハッチバックを開けました。しかし、誰もいません。

声をかけても返事はなく、崩れたダンボールを戻しながら確認しましたが、やはり誰もいませんでした。Tは首を捻りながら運転席に戻り、念のために再度後部へ声をかけましたが、返事はありません。

「見間違えだ」と思い、Tは再度車を走らせました。
しかし、首都高に乗った途端、また後部で小物が撒き散らされる音がしました。「積みが甘かったかな?」と思い振り向くと、やっぱりいる。
ダンボールの隙間から、女の子の体の一部が見えました。

「どうした?いじめられたのか?家はどこだ?」と声をかけましたが、返事はありません。ルームミラーからは見えず、Tは「もう一度振り向くか」と思ったその瞬間、ダンボールが崩れる音がしました。

Tは、「おーい」と声をかけながら振り向いた。
すると、今まで隙間からしか見えなかった女の子の全身が見えた。しかし、それは全身ではなく、半身でした。ダンボールの側面から半身だけが出ているのです。
「あぁぁぁぁぁ~~~っ」
Tは叫び、首都高の工事用特殊車両に突っ込みました。

Tはフラフラと車から出て、ハッチバックを開けましたが、やはり誰もいませんでした。現場検証が終わり、警察署でボーっとしていると、親父さんが迎えに来ました。車に乗り込むと「またか!」と拳骨をくらいましたが、Tは黙っていました。

親父さんがTの様子がおかしいことに気づき、今日の出来事を話すと、親父さんは豪快に笑いました。
「お前も見たか!やっぱり中古車はダメだなぁ!次は新車を買うか?!あっはっはっはっは!!」

そんな豪快な親父さんをTは尊敬しているそうです。

これは友人がTから聞いた話なので真偽のほどは分かりませんが、彼の事故歴を考えると真実なのでしょう。

(了)


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