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異境からの手紙【怪談・怖い話】

彼女は記憶から消された。

私の名前はヒロシ。小学生時代、いたずら好きのクソガキだった。ある日、男子のガラスへの突入事故を起こしてしまった。授業中、廊下を歩いていた男子の足を引っ掛け、思わずガラスに激突させてしまったのだ。男子は腕を切り裂き、大怪我を負った。担任は怒り狂い、親に連絡すると宣言した。しかし、その後、事故の件で何の指摘もなかった。

それから10年余り後、小学校の同窓会が開かれた。旧友と思い出話をしていると、皆から衝撃的な事実が明らかになった。事故の黒幕はクラスの人気者、A子だったという。画びょうの遊び、水をかける悪戯、そして私の事故まで、A子がすべてを企てていたのだ。さらに、担任や男子の記憶もA子を加害者として書き換えられていた。

A子は優等生の面紗をかぶった魔女だった。

表面上は愛される存在でいたが、実は女王蜂のようにクラスを操っていたのだ。ぼくらをいたずらの道具として利用し、周りの目を盗んで悪事を重ねていた。女子グループの支配権争いに巻き込まれたのかもしれない。しかし、なぜ記憶が改変されたのか。人の認識は曖昧で脆いものなのだろうか。

真相究明のため、私はA子の家を訪ねた。ところが、そこには年老いたカップルしか住んでいなかった。「A子は幼い頃に事故で亡くなりました」そう言われ、事実関係が掴めなくなった。記憶の改変、あの優等生は幽霊だったのか。家族からの証言通り、A子は存在しなかったのだろうか。私の記憶、みんなの記憶は捻じ曲げられていたのだろうか。それとも、まさか…。

回顧すれば、A子には不可解な点が多かった。

いつも一人で廊下を歩いていた。姿が何かぼんやりとしていた。時折、不思議な独り言を口にしていた。A子は現実とは別の次元の存在だったのではないか。彼女はタイムスリップしながら私たちの世界に出入りしていたのかもしれない。私たちの認識を歪めるほどの力を持ち、記憶を捻じ曲げていたのだろう。事故を企て、それに失敗すると記憶を書き換え、跡形もなく消えた。A子という謎の少女は、別世界からやってきた使者だったのだ。


数か月後、私は衝撃的な事実に気づいた。

同窓会の写真を見返すと、一人の少女の姿が写っていた。ほのかに微笑む、ぼんやりとした少女の姿。同窓会にはいなかった筈のA子だ。さらに調べを進めると、彼女の正体が判明した。

A子こと亜子は、私の母親の双子の妹だった。双子の妹は小さいころ事故に遭い、命を落としていた。しかし、ある日を境に、亜子は本当に存在しないはずの人物になってしまった。母親の両親の記憶から消え去り、母親にすら認識されなくなっていたのだ。では、同窓会で亜子の姿が写っていたのはなぜか。

真相は、この世とは別の次元からやって来た使者だったことにある。亜子は、人々の記憶と認識を自在に操る力を持っていた。生前は優等生を装い、人々を翻弄していたのだ。そして同窓会の夜、たまたま同空間にいた私たちの記憶を書き換え、存在を知らしめたのだ。しかし、その瞬間、この世界から消えてしまった。奇怪な力を持った別次元の使者は、私たちと接触したことで力を失い、二度と姿を見せなくなったのかもしれない。

その後、私は母親に事実を話し、尋ねた。「母さん、母さんの双子の妹の名前は何だったの?」するとなんと、母親自身が亜子の名前を忘れていたのだ。全てが真実だったことの証しだ。私は異世界からの使者の正体に迫ることができた。だがあくまで謎は残されたままで、時を経るごとに記憶の在り処がわからなくなっていく。常人には理解しがたい、恐ろしい存在だったのだろう。


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