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建設会社の社員寮【怪談・怖い話】

千葉県に住む染谷さんから聞いた話。

染谷さんが大学時代、工事現場で日雇いアルバイトをしていた時のことだ。その現場監督、工藤さんから聞いた話が今でも忘れられないという。

工藤さんがまだ新人で入社したばかりの頃、彼は会社の社員寮に入った。その部屋は四畳半の一人部屋で、長い間空室だったという。工藤さんが長く寮に暮らしている先輩に聞いたところ、その部屋には以前、板橋さんという社員が住んでいたが、奇妙な理由で退社したと聞かされた。

その理由とは、前夜に大雪が降った朝、なかなか起きてこない板橋さんを同僚が起こしに行った時のことだ。布団の上で両足を骨折し、両肩が脱臼した板橋さんが、焦点の定まらない瞳で何かをうめき続ける姿を発見された。

板橋さんはそのまま病院に運ばれたが、回復せずに退社し、実家に引き取られていった。布団の上でなぜそのような大怪我をし、気が触れた状態になったのか、誰にも分からなかったという。

そんな不気味な事件のあった部屋だが、工藤さんが入寮して九ヶ月が経ち、何も起こらなかった。彼はすっかりその話を忘れかけていた。

一月のある夜、関東地方では久しぶりの大雪が降った。
工藤さんはいつものように布団で寝ていたが、ふと目が覚めた。両手両足になぜか痛みを感じ、次第にその痛みが増していく。

工藤さんは助けを求めようと布団から起き上がろうとしたが、体が布団に釘付けされたように動かない。叫びたくても声が出せず、短く刈り込んだ髪の毛が引っ張られるような痛みと共に、どんどん伸びていくのを感じた。

暗闇に目が慣れてくると、手足に目をやった工藤さんは恐ろしい光景を目にした。身長三十センチほどの小人たちが、四人ずつ工藤さんの四肢を掴んで引っ張っていたのだ。

引っ張られるごとに手足は壮絶な痛みを伴いながら伸びていく。髪の毛は二手に分かれ、それぞれの先端に小人が一人ずつついて引っ張り続けている。工藤さんは完全にパニックに陥り、痛みに耐えながらも暗闇の中で自分も板橋さんのようになるのではないかと恐怖に震えた。

髪の毛が腰まで伸び、両足が布団の先の壁際にある本棚まで届いた時、窓の外でドサリと雪が落ちる音が聞こえた。その瞬間、痛みが和らぎ、工藤さんは気を失った。次に目覚めた時、朝になっており、体の自由は戻り、痛みも消えていた。

「夢だったのか……」

そう思いながら布団から起き上がると、床には前日までなかった大量の長い髪の毛が散らばっていた。その長さは工藤さんの腰ほどあった。工藤さんはその日以来、先輩に頼み込み、相部屋をお願いしたという。

現在、その寮があった場所は駐車場となり、すぐ近くに新しい寮が建てられているそうだ。工藤さんはこの体験談を現場の皆に話してくれたが、男ばかりの現場ではさほど盛り上がりもしなかった。

染谷さんはその日の帰り、真っ暗な道を一人で自転車を走らせている時にその話を思い出し、怖くなって必死に家まですっ飛ばして帰ったという。


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