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静寂の雪原に消えた工場【怪談・怖い話】

これは、ある派遣社員が体験した、奇妙で不気味な話である。

その派遣社員、佐藤さんが、ある冬の一ヶ月間、道東の山奥にある製材工場で働く仕事を紹介された。仕事はフォークリフトで製材の積み込みをするという内容だった。泊まり込みで三食付き、広い風呂に個室のテレビも完備と、好条件だったため、佐藤さんは快諾した。

工場に着いた佐藤さんは、工場長と二人の無口な作業員、そして飯場のおばちゃんの四人と一緒に過ごすことになった。三食の飯はおいしく、仕事は定時で終わり、広い風呂で疲れを癒し、夜は模型を作りながら過ごすという、静かで満たされた日々が続いた。ただ、一つだけ気になったのは、工場長以外の誰もが口を利かないことだった。作業員も、飯場のおばちゃんも、佐藤さんが話しかけても一言も返事をしない。

ある日、佐藤さんは工場長にそのことを尋ねた。工場長は「気にするな」とだけ答えた。それ以降、佐藤さんは気にしないことにした。1ヶ月が過ぎ、佐藤さんは無事に任期を終えた。自宅に帰る前に派遣会社に報告し、営業係と一緒に製材工場に御礼に行くことになった。

翌日、現地に到着すると、工場は無人で、雪に埋もれていた。まるで長い間閉ざされていたかのように。昨日まで動いていた工場が、まるで幻だったかのように変わり果てていた。営業係と佐藤さんは愕然とし、麓の町にあるという本社に向かった。しかし、本社も同様に無人だった。辺りの住人に聞いても、人の出入りはないという。

「やられたな。」営業係はそう呟いた。佐藤さんも、タダ働きはゴメンだと思った。しかし数日後、驚くことにその製材会社から派遣会社に満額の入金があったのだ。

佐藤さんは不思議に思いながらも、その後の日々を過ごしていたが、今でもあの山奥の製材工場を思い出すと、一人で気味悪がることがある。あの工場長が一人で経営し、短期間だけ工場を稼働させていたのかもしれない。しかし、それでもあの無口な作業員たちや飯場のおばちゃんの存在が、どうしても納得できない。まるで彼らがこの世のものではなかったかのように。

以上が佐藤さんの体験した、うっすらと恐ろしい話である。




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